呪われた血族の牙城:最終話~娘、血のあるじに相対す~
- 管理人 天狗ろむ
- 3月13日
- 読了時間: 24分
▶前回のあらすじ
囚われのノームたちから金貨とアイテムを沢山もらったり、またまた「手がかり」をゲットしたりのセレーナちゃんとミダスさん一行。
「手がかり」3個目なので、アルザハイオン様がお呼びな雰囲気。もう少し探索したい気持ちはあったのですが、最終戦へと向かいます。
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できごと 7枚目 🎲13→最終イベント〈血の主アルザハイオン〉
もう少しだけ冒険したかったのですが、アルザハイオン様がお呼びのようでした。
すみません、寄り道しようとしてすみません。
レベルも高め、生命点も高めです。
そして何と!? 【血の呪い】を受けている主人公は、【防御ロール】に-2の修正!?
本来、ここまで【血の呪い】を持っていた場合、必然的に呪いがアルザハイオン様に由来する事になりますもんね……血の主には抗いがたい、という感じでしょうか。まずいぞ!!
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
古城の中心にある、一番高い尖塔へと向かう。一番高いだけあって、延々と螺旋階段が続いていた。
「ググさん。ここまでで大丈夫。あなたは先にお逃げなさい」
「え!? セレーナ様、おれはもうお役に立てませんか」
「命を粗末にするな、という事だ。お前の身に構っていられる程、これから挑む戦いは甘くない。死にたくないならば、さっさと行け」
アルザハイオンの居場所は突き止めた。ググの案内が無くても辿り着ける。セレーナもミダスも促すが、本来臆病者な筈のゴブリンは、首を縦には振らなかった。
「おれのご主人様は、セレーナ様です。だからおれは待ってます。だめですか」
「ダメではないけれど……ここにも敵が来るかもしれないですよ」
「おれ、隠れるのは得意です! セレーナ様とミダスを待ちます!」
随分と慕われてしまったらしい。セレーナは困りつつも嬉しさもあって、ミダスを見上げた。ゴブリンに呼び捨てにされている男は、勝手にしろ、と背を向ける。
「じゃあ、ググさん。行ってきますね。あなたも充分気を付けて。身の危険を感じたらすぐ逃げるんですよ」
「はい! セレーナ様、ご無事の帰りを待ってます! ミダス、セレーナ様を守れ!」
「……お前に言われずとも」
もしかするとゴブリンより下に見られているかもしれない男は、渋面を隠さない。最終決戦を前にしながらも、セレーナはくすりと笑ってしまった。
†・†・†・†
ググと一旦別れ、螺旋階段を上り始める。少し息を切らせながらも、セレーナは呟く。
「……ここまで、色んな事がありました。両親の死、血の呪い、吸血鬼退治の為の旅……そして、ミダスさんと出会った事、この古城での冒険……どれも、夢みたいですけど、私が歩んできた道なんですよね」
「……嗚呼」
上を見上げると、まだ階段は続く。それでも、少しずつ頂上に近づいていく。セレーナの旅路も、形にするならこのような螺旋状かもしれない。進んでいるのか、それとも遠ざかっているのか、その時は分からないなりにも進み続けると、いつの間にか少し高い所にいる。ぐるぐると、過去と現在、そして未来が混ざって、道を為す。
「ここで終わりにはしたくない。まだ、旅をしたいと思います。ミダスさんと、もしかしたら他の仲間とも」
「……そうか」
ミダスはセレーナの独白に静かに相槌を打つだけだった。彼女の言葉は、自分に言い聞かせているものでもあったからだ。その距離感が丁度良く、心地好いのだとセレーナは思う。
どうしたら伝わるのだろう。
彼は、最早セレーナの未来には必要不可欠な存在なのだと。
「ミダスさん」
「何だ」
「契約、交わしませんか」
「契約?」
「手持ちが金貨100枚ですので、今の内に」
この気持ちが何であるのか、セレーナには分かるような、分からないような。
でも、それをそのまま伝えたところで、この受け取り上手な男は、それだけは受け取ってくれないのだろう。
ならば、分かりやすいもので縛りつけておくしか、方法を思いつかない。
「……金なら要らん」
「そうでもしないと、その内どこかに行ってしまうおつもりでしょう。逃がしませんよ」
「……はあ。内容は」
暗殺者を雇うなど、未体験中の未体験だ。相場がどれほどなのかも、ミダスの雇用金額が今までどれくらいだったのかも知らない。期限は設けなくてはならないだろう。
「えぇと……私の呪いが解けるまで、私の吸血鬼退治の旅に同行して下さい」
「……最初からそのつもりだと言ったら?」
「え?」
「……まぁ、いい。それでお前が安心出来るなら。ヴェルゴウルとアルザハイオンは借りの分。それ以降のあと5体は、倒す度に金貨20枚を頂くとするか。どうだ」
「全部で金貨100枚、ということですね。私はそれで構いませんが……」
「契約成立だ。……俺も主と呼んだ方がいいか?」
「いえ、今まで通りで!」
ふ、と少しだけミダスが笑った気がした。これで少なくとも、呪いが解けるまでは一緒に過ごせるのだ。いずれ来る別れを思うより、今は素直に喜ぶ事にした。
「それでは、改めて宜しくお願いします、ミダスさん」
「……嗚呼。宜しく、セレーナ」
お互い名を呼び、視線を交わす。最初の冒険の時より、距離は縮まったような気がする。命の恩人から、雇用主となり、肩書自体は遠くなった気もするのだが。
「……まずは、2体目。倒しましょう」
「嗚呼」
頂上に近づくにつれ、少しずつ、セレーナの息が乱れ始める。階段を上り続けた所為だけではない。何か、抗いがたい重圧のようなものが、彼女の身に降りかかる。血の主、アルザハイオンの気配に、体中の血が反応しているような……全身がざわざわとして、呼吸が落ち着かない。この呪いの一部が、もしかしたらアルザハイオンと関係しているのかもしれなかった。
「……大丈夫か」
「うぅん……ちょっと、ご飯食べておきます……」
「そうか」
踊り場のようなところまで来て、一旦小休憩を入れた。しっかり準備してから挑むべきだろう。干し肉を噛みちぎり、咀嚼しては呑み込む。味はあまり感じられなかったが、それでも少しだけ体調がマシになったように感じた。
気を取り直して、再び階段を登る。一段、一段と登る度、重圧は強くなっていく。けれども、セレーナの足は止まらなかった。この程度で、退いてはいられない。
ネルドで出会った人たちを思い出す。最初の依頼人とシエラ夫妻、アンジーとカットナー老人、そしてその息子ディーラン、ゴブリンのググ。誰もが、セレーナの無事と、吸血鬼を倒す事を願ってくれたのだ。セレーナは最初、自分の呪いを解く為だけに戦うつもりだった。けれど、今は皆の為に倒そうとしている。それがどんなに強大な相手だとしても。その上、自分の呪いも一つ解けるのだから、随分とお得な話だ。
「やるしか、ありません」
やらない選択肢は無い。セレーナの呟きにまた、ミダスが嗚呼、と頷いた。
とうとう、永遠に続くかに思われた螺旋階段が終わりを告げ、頂上へと辿り着いた。見張り台として使われていた場所らしく、屋外へと出る。随所に穴の開いた外壁に囲まれ、中央には鐘突き堂が設置されている。その周りに魔法陣が血で描かれていた。湿った風に、血の臭いが乗る。
「来たか、生者たちよ」
低く艶のある声が響く。鐘突き堂の屋根の上、赤い赤い月に照らされた吸血鬼が、ようこそ、と言わんばかりにマントを広げた。
「丁度、あと生者二人分の血があれば、儀式が完成するのだ。わざわざ届けてくれた事に謝意を示そう」
「お生憎様、私は半分死人ですので、それなら儀式は完成しませんよ」
「それとも、お前の血だけで完成するのか?」
ふふん、とセレーナが何故か胸を張る。ミダスが皮肉ってみせれば、アルザハイオンは形の良い片眉を上げて二人を見やる。そして、セレーナを見ると、モノクル越しに赤い瞳を輝かせた。
「嗚呼、成程……【血の呪い】を受けた者か。まぁ良い。血に変わりは無かろう。……血の主に盾突けると思うなよ」
「う……っ!?」
「セレーナ!」
「だい、じょうぶです。……負けはしません」
金縛りにあったかのような痺れが全身を襲う。肩で息をしないと、満足に呼吸も出来ない。身を委ねてしまいそうな誘惑に抗いながら、セレーナはそれでもアルザハイオンを睨んでみせた。そして、ゆっくりと老人から預かった銀のランプを取り出す。
「盾は持っていませんので、代わりに此方で。……私は、貴方を倒します、アルザハイオン!」
「それ、は、おのれ……ッ!」
ランプの口をアルザハイオンに向け、宣誓のように名を叫ぶ。アルザハイオンの身体からどす黒いオーラが抜けだしていき、ランプに吸い込まれて行く。宙に浮いていたアルザハイオンは、その勢いに吸い寄せられるかのように降り立った。
「こんな小細工如きで、勝てるとでも思っているのか。……あの忌々しい老いぼれが逃げ出した時点で、それを使われる可能性を考えていなかったとでも?」
そう叫ぶ吸血鬼の眉間には、深い深い皺が刻まれている。そうは言っても、ランプの力は凄まじかったのだろう。
これは、吸血鬼殺したちの叡智の詰まったものなのだ。セレーナの祖父母もこれを作るのに携わり、そしてセレーナの両親の形見の武器が、今までセレーナを助けてくれた。自分は、色んな人に生かされ、そして、それを繋いでいくのが使命なのだ。
「貴方にとっては小細工だとしても。我々人間には大きな武器なのです。そして、その叡智の前に、倒れるが良い、不滅の王よ!」
「戯けた事を抜かすな、血の奴隷。崇高なる闇神オスクリードの寵愛を受けし我々が、生者に敗れる事など、永劫有り得ん!」
セレーナは銀の矢じりを矢をひと撫ですると、ゆっくりと矢をつがえた。
――父さん、母さん、どうか力を貸して。
ミダスもセレーナの隣にそっと並ぶ。銀の剣を片手に持ち、静かに聖水を取り出した。これほど投げつけるのに適した相手もいないだろう。人型であれば、ミダスの本分だ。
赤い赤い月が頭上に上る。真夜中の決戦が、静かに始まった。
△△△△△△△△△△
めっちゃ描写長くなっちゃいましたが、最終決戦前という事で……。
途中でセレーナちゃんが食料消費で生命点満タンにしておきました。1点を笑うものは1点に泣くのだ。
さて、最終決戦アルザハイオン様戦! 気を引き締めていきましょう!
▽0ラウンド目
セレーナちゃんが形見の銀の矢じりの矢をつがえ、弓を引き絞ります
技量点1点+🎲1=ファンブル!
ミダスさん、ノームに貰った聖水を容赦なくぶん投げます! ここは器用点で!
器用点4点+修正1点+🎲4=成功!
セレーナちゃんの悲しみのファンブル分を、ミダスさんがキメてくれました。
アルザハイオン様は強いクリーチャーかつ、アンデッドの為、生命点に2点のダメージです。これで残り5点。
▼1ラウンド目
セレーナちゃん、形見のレイピアをすらりと抜いて、立ち向かいます!
技量点1点+🎲2=失敗
ミダスさん、聖水で苦しむアルザハイオン様に追い討ちとばかりに銀の剣を振るう!
技量点2点+🎲6=クリティカル! ⇒+🎲4=成功!
ミダスさん大活躍。クリティカルと追撃でまた2点削りました。残りは3点!
ここで、防御は3回分。セレーナちゃんがしんどそうなので、ミダスさんが2回、セレーナちゃんが1回でどうにか凌ぎましょう!
セレーナ 防御 技量点1点-修正2点+🎲2=失敗
ミダス 銀の剣を構えて防御1回目 技量点2点+🎲4=成功
2回目 +🎲6=クリティカル!
ミダスさんの暗殺者能力が限界突破したんでしょうか。
それとも、改めての雇用契約(という名のずっと一緒にいてね宣言)(?)でパワーアップしてるのかもしれません。
セレーナちゃんは生命点が6点に。流石に-修正2点は厳しいものがありますね。ただ、だいぶ優勢なので、畳みかけていきたいところ!
▼2ラウンド目
セレーナ、息を整えレイピアを突き入れる! 技量点1点+🎲1=ファンブル!
ミダス、銀の剣で回し斬り! 技量点2点+🎲4=成功
セレーナちゃんが振るわない! やはり血の呪いの効果が彼女を蝕んでいるのやも。
ミダスさんがその分頑張ってくれています。頼りになるおじさまだぜ。
アルザハイオン様の生命点は残るは2点。
防御は先程と同じく。
セレーナ レイピアで弾く 技量点1点-修正2点+🎲4=失敗
ミダス 銀の剣を盾代わりに 防御1回目 技量点2点+🎲1=ファンブル!
2回目 +🎲4=成功
流石に全回避とはいきませんでした。二人とも1点ずつのダメージ。
セレーナちゃんは生命点5点、ミダスさんも生命点5点です。
良い勝負をしていますが、次で決めたいところ! 気合入れるぞ!
▼3ラウンド目
セレーナ、覚悟を込めた一突き! 技量点1点+🎲6=クリティカル!
2回目 +🎲5=成功!
(ミダスさんも振りましたが、🎲2で失敗だったのでそっと無かった事にしました。
ミダス「……」)
劇的な感じでトドメを刺してくれました!! ヒロインかつ主人公過ぎる。
アルザハイオン様は倒され、戦闘終了!!
☆ 宝物
修正点+3! 心がぴょんぴょんする響き。
ここは勿論、セレーナちゃんが。
🎲5+3=8……魔法の宝物:🎲1〈夢をかなえる小箱〉
何だか悪さに使えそうなものをゲットしましたね。
金貨100枚は、描写の関係でミダスさんへの雇用金として確保しておかなければならない関係上、ワイロ用に使える金貨をこれで誤魔化せるのは助かるかも。
アルザハイオン様もこれを使ってゴブリンとかこき使ってたのやも?
意外にもけち……ごほん、倹約家であられるようですね。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
セレーナの想いの込められた銀の矢は、アルザハイオンを目掛けて飛んでいく。しかし、ニヤリと牙を見せ、ザァ……と霧状になった吸血鬼は一射を難なく避けた。
「くっ、外しました……!」
「遅い。そのような遅々とした矢で、私を穿てるなどと思い上がるな」
「では此方をくれてやろう」
アルザハイオンがセレーナに気を取られている隙に、ミダスは音もなく背後に回ると聖水瓶の中身をぶちまけた。霧の端が火に焙られた水の如く蒸発する。
「ぐッ、貴様、いつの間に……」
「闇に紛れるのが得意技なのは、何も貴様ら吸血鬼だけではないということだ」
ミダスが瓶を投げ捨てると、ガシャリと盛大な音を立てて割れた。細かな破片が辺りに飛び散り、吸血鬼の目線がそちらに向かう。吸血鬼には計算癖があるという……その一瞬の隙を突き、ミダスは銀の剣で二撃食らわせる。やはり、ミダスさんは強い、と思いつつ、追撃しようとセレーナも形見のレイピアを抜いた。けれども、軽い筈のそれが、異様に重く感じる。突き入れてみたが、さらりと躱され、逆に反撃を受けてしまう。これでは敵に遅いと嘲笑されるのも無理もない程、動けない。まるで、自分の周りの空気が水に変わってしまったかのように息苦しく、重い。
「セレーナ、無理をするな」
「いいえ、……まだ、やれます」
ほんの少しだけ、目線を合わせる。少しだけ曇りを見せていたが、彼の鋭い眼から迷いは即座に消えた。多少なりとも、彼から信用を得られたようで、セレーナの息苦しさが少し落ち着く心地がした。息を整え、レイピアを握る手に力を込めてアルザハイオンへ突き出すが、やはり躱されてしまう。自分が倒さねばならぬ敵に、一撃も与えられないのは、流石のセレーナも悔しくなる。ミダスの動きは軽やかにすら思われて、少しだけ羨ましい。あれ程強くなれたなら……いや、強くならざるを得なかった彼は、その強さを遺憾なく発揮してセレーナの敵を追い詰めていく。ミダスの振るう銀の剣が横薙ぎに弧を描くと、アルザハイオンから苦悶の声が上がった。
「その動き……暗殺者だな。同族を殺すのに飽き足らず、不死の王すら殺したいと見える……殺しに飢えた獣め」
「ミダスさんは、そんな事……!」
自分の事をとやかく言われるならば我慢できた。けれど、ミダスの事を悪しざまに言われるのは耐えられなかった。ミダスが決して、好んでその道に進んだ訳ではないのは、目に見えていたから。本来は深い優しさを持つ人なのだから。セレーナが見せてしまった大きな隙を、アルザハイオンが見逃す訳もなく。目の前に吸血鬼の鋭い爪が迫り、庇った腕から鮮血が飛ぶ。――熱い。既に冷えきってしまった身に、炎に触れた時のような熱さが奔る。もう一撃、今度は急所を狙い澄ました攻撃がセレーナに襲い掛かった。更なる熱さを覚悟する。……けれど、身を包んだのは痛みなどない、温もりだった。
「……ッ、奴らの言葉に惑わされるな、と、言ったのを忘れたか?」
「ミダスさん……!?」
思わず閉じていた目を開くと、セレーナを庇うように抱き込んで、ミダスが大きく息を吐いた。銀の剣を掲げている腕から、血が滴り落ちていく。怪我をした左手にランタンを、出会った時に怪我をしていた右手に剣を持ち替えるミダスの腕に、思わずそっと触れてしまった。
「また腕が……」
「こちらは完治した。誰かさんの熱心な治療のお陰でな。……だが、こちらで剣を振るうのは久々だ。頼りにしているぞ」
ミダスがセレーナの顔を覗き込む。珍しく真っすぐに、鋭い眼差しがセレーナを射抜く。低い呟きは、恐らくセレーナだけにしか聞こえないくらい小さかった。けれど……セレーナの身に、心に、きっと魂にまで深く届いて、力が漲ってきたのが分かった。でも、もう少しだけ、勇気が欲しかった。私はどうしたって、弱いから。
「……ミダスさん。願ってくれますか。貴方の言葉も、私に力をくれるのです」
「それは忘れてくれて良かったんだが……」
「ふふ、忘れる筈ないでしょう?」
「はぁ。……お前ならば倒せる相手だ。共に朝日を拝んでくれ……セレーナ」
朝日。吸血鬼を滅ぼす光。世界一面を照らす、暖かな陽射しを思い出し、ふっと身が軽くなる。日の出を、二人で生き残って拝もうとするなら、こんな所で倒れてなどいられない。
「はい、ミダスさん。約束です」
セレーナには、笑んでみせる余裕さえ出来た。
――嗚呼やはり、私はこの人が。
「貴様らが拝むのは、この赤き月と、偉大なる私の姿が最期だ……!」
アルザハイオンが吼える。ミダスにそっと肩を叩かれつつ、二人は離れた。ミダスが先行し、鋭く剣を振るう。彼の方を警戒しているアルザハイオンが避けた場所に向かって、セレーナは自ら飛び込むように駆けた。
「はぁッ!」
彼女の髪に月光が反射し、銀の矢のようにきらめきながら、レイピアの切っ先がアルザハイオンを穿った!
「な、にッ……そこまで、動ける筈が」
「【血の呪い】如きで、私を止めようだなんて……【傲慢】です、アルザハイオン!」
狙うは心臓。渾身の力で母の形見を突き入れると、アルザハイオンは絶叫しながら、灰になっていった。
その灰の中から現れた一匹のコウモリの翼を、飛び去る前にミダスが銀の剣で断ち切った。流れるような動きでランタンの油をかけると、火をつける。コウモリは断末魔を上げ、塵となっていく。セレーナが口を挟む暇もなく、見事な手際だった。
「狼の次はコウモリか。……獣はどっちだろうな」
「……ミダスさんは私の言うこと、覚えててくれるんですねぇ」
「お前が忘れすぎなだけだろう。全く」
感心するセレーナに、呆れを大いに含ませた溜息を吐きながら灰の中から小箱を拾い、ミダスはそれを軽く振る。ジャラジャラと中に金貨でも詰まっているような音がして、二人で顔を見合わせた。
「えっ、凄いお宝じゃないですか?」
「いや、音の割に重さが全然感じられない……魔力の籠もったものだろうから、何か仕掛けがある筈だ」
何の変哲もない木で出来た小箱を検分していると、「セレーナ様~! ミダス~!」とググが走り寄ってきた。
「ググさん! 無事でしたか、良かった」
「はい、ググは隠れてました。城の中に重い気配が無くなったので、きっとセレーナ様が勝ったんだろうって」
ググはセレーナ様、ばんざい~! と両手を挙げる。と、ミダスの手の中の小箱を凝視した。
「何だ、これを知っているのか」
「それ、偽金出て来る箱。ググは騙されなかった、見えるから」
「偽のお金が入ってるんですか?」
「偽のお金がいくらでも出て来るんです、でも偽のお金はすぐ消えちまうんです。それ使って、元ご主人様は他の奴らを騙してたんです」
ググはどうやら、魔術の素質があるらしかった。それ故に、箱に掛けられた魔法に気づき、生贄を尖塔に連れて行く役目を負わされたのだろう。そうでなければ、生贄役として既に命が無かったに違いない。
「王だの何だのと偉ぶる割に、ケチな奴だな」
「逆に賢い気がしますけれどねぇ。でもそれを見破ったググさんはもっと賢いですね」
「へへ、ググは賢いです! だからさっさとここから出ましょう、セレーナ様」
「えぇ、そうですね……わっ!?」
ググにマントを引かれたその瞬間、城全体がグワン、と揺れた。地響き、地鳴りのような音も響き始める。
「……まさか」
「首いっぱいの、でっかいヘビみたいなやつ、元ご主人様が死んだので、暴れます。だから逃げましょう、セレーナ様」
「早く言わんか! 帰るぞセレーナ!」
「は、はい!」
「ミダス、元ご主人様よりこわいかお!」
三人はグラグラと揺れる見張り台から飛び出し、螺旋階段を滑るように降りていく。
吸血鬼退治が出来ても、生き埋めとなってしまったらまるで意味がない。
無事に帰るまでが、吸血鬼退治なのだ。
△△△△△△△△△△
古城といったらやはり崩れるのがスタンダードかなって(?)
でも勝手に全部崩す訳にはいかないので、多分原型は殆ど残っていると思います。高い場所の方が揺れ凄そうですからね……。
ググはもしかしたら、主人公側ゴブリンの適正もあるのかも~、な雰囲気を出してみました。
ネルドへ戻った際のエピローグを加えて、セレーナちゃんとミダスさんの冒険譚を終わりにすると致しましょう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
ネルドに戻る頃には、夜が明けていた。
目を細めて、朝日を浴びる。セレーナには少しだけ肌がぴりりとするのだが、それすらも心地好かった。アンデッドの身とはいえ、生きている証に思えるのだ。何より、隣にはミダスが立っていてくれる。
「……約束、守れて良かったです」
「嗚呼」
ミダスは多くを語らず、昇りゆく朝日を見つめたまま頷くだけだった。けれど、少し眩し気に細められた眼差しは、いつもよりどこか柔らかい。
「ググもセレーナ様と約束したいです!」
「あら、じゃあ何を約束しましょうか」
「ご飯を食べましょう、ググは腹ペコです!」
言われてみれば、とお腹を押さえる。血も流したので、確かに空腹だった。ググはこき使われていた間、碌なご飯は食べさせてもらっていないという。可哀想に。
「……飯の約束もしていたな、確か」
「あ、そうでした! じゃあ、シエラさんご夫婦の所へお伺いしましょうか」
ご飯をせびりに行くのも少しばかり気が引けたけれど、礼をしたいという夫婦の厚意を無下にするのも宜しくはないだろう。セレーナとミダス、ググがシエラの家を訪ねると、カットナー一家も一緒に待っていた。
「待ちくたびれたぞ、もっと早く帰ってくるかと思っておったわい」
カットナー翁が開口一番に嫌味っぽく文句を言う。セレーナは苦笑しつつ、ぺこりと頭を下げた。
「あら、それはお待たせしてすみません」
「もう、違うでしょ、お祖父ちゃん?」
孫のアンジーにつつかれて、老人は少しばかり口ごもる。ややあって、セレーナに両手を差し伸べた。
「む……そう、だな。本当にようやってくれた、お帰り、我らの英雄よ」
「……はい! ただいま、です!」
セレーナが思わず抱き着いたものだから、カットナー老人が倒れそうになり、支えようとしたアンジーやミダスまで巻き込んで、わちゃわちゃと団子のようになる。その様子を、シエラ夫妻がくすくすと笑いながら見守っていた。
「さぁさ、皆さん。腕によりをかけましたから、ご飯にしませんか。英雄譚は食べながら聞かせて頂きましょう」
「シエラの飯はほんとに美味いんですよ。吸血鬼どもと、その点だけは同意見そうだなぁ」
「……あなたにはパイはあげませんからね」
「シエラ!? ち、違うんだ、パイはお預けでもいい、もう出て行ったりしないでくれ!?」
聞けばシエラは、どうやら旦那の失言によって喧嘩し、家出した際に連れ去られたらしい。必死で縋りつく旦那に、シエラはやれやれとあきれ顔をしつつも、どこか嬉しそうだ。夫婦に襲い掛かった危機は、彼らの絆をより深いものにしたのかもしれない。彼ら夫婦の話や、カットナー老人たちの話、自分たちの冒険の話をしながら、大いに飲み、大いに飲んだ。ググも仲間という事で、席を与えられてもじもじしつつも、アンジーに世話を焼かれてニコニコとしている。
「……ふふ、楽しいですね」
「……騒がしい」
両親と食卓を囲む事も少なかったセレーナには、このような宴めいた食事は新鮮だった。ミダスも食事は基本的に必要最低限、むしろ食べない状況も多く、やや居心地は悪そうにしている。その様が少しだけおかしい。セレーナが微笑むと、ミダスは更に渋面を深めた。
「良いじゃないですか。少しずつ慣れていきましょう」
「……まぁ、善処する」
前向きに検討してもらっただけでも、やっぱり大きな進歩だった。
セレーナの呪いが解けるまで……倒すべき吸血鬼はあと5体。
彼女がミダスと共にいれる時間も、そこまでだ。
不死なる吸血鬼たちは、こうしている間にも罪を重ねていく。
その永劫なる罪に、『久遠の罪に終止符を』打つ旅は、まだ、始まったばかり。
けれどそれは、またどこかで、あるいは語られぬ、冒険譚となる――。
△△△△△△△△△△
……という、何だか続くんだか打ち切りなんだかという感じに締めさせていただきまして。
まずは一旦戦果のまとめ!
☆ 今回の戦果
部屋に隠された『宝』ロケット 金貨10枚
グールから 金貨9枚
ノームを助けた礼 金貨50枚
聖水→使用したので消失
アルザハイオンを倒して見つけた宝 魔法の宝物:夢を叶える小箱
これにて、二人の冒険はおしまいです!
セレーナちゃんの【血の呪い】が解けるには、あと5体の吸血鬼を倒さねばなりません。
今回の公式シナリオリプレイ&七つの大罪をモチーフにした吸血鬼退治キャンペーン自作シナリオ5本分のリプレイ&←自作シナリオ集『久遠の罪に終止符を.』(ページ数凄い事になりそうなので恐らく分ける)を制作予定したい……ところなんですが、シナリオの特殊ルール(今回だと【血の呪い】や職業【吸血鬼殺し】)を使う場合、シナリオ作者様の許可を得らなければならず……!(チキン故勇気を出せずにいます)
『呪われた血族の牙城』も今のところ書籍化は未定らしいので(私としてはめちゃくちゃ面白かったので熱望しておりますが)、これは一旦保留かなぁと考え中です。
ネタは一応温めておきます。セレーナちゃんとミダスさんの旅路を終わりにしたくはないので……!
そんなこんなの予定やら野望やらはございますが、兎にも角にも初リプレイの拙い表現などにお付き合いいただき、ありがとうございました!
さて、ここからは蛇足のようなあとがき。もし気になる方のみお読みください。
めちゃ中の人のまじめな話をしてます。ちょい暗いかもです。
本を出すぞ~!というのを大目標としながら、諸事情で本に出せそうにないこのリプレイを天狗亭リプレイ第一弾としたのは、ローグライクハーフと、このシナリオ「呪われた血族の牙城」で、私が救われたからでした。X(旧Twitter)でも少しだけ呟いたのですが、少しだけ詳しく。
前職を心の病で辞めまして、ほぼ一年休ませてもらった後に、今の新しい仕事に就きましたら、初めての肉体労働で心身ヘトヘト、帰ったらご飯食べて寝るだけ……の生活が半年くらい続いておりました。
何とか気合で推しの配信者さんの応援などをしたり、そのファンアートを描いたり、趣味の時間を持つようにしていたのですが、どんどんその気力も無くなり。
ゲームやら好きだった事に励めなくなって、お友達と遊ぶような元気も残っておらず、もう生きてる意味ないかも~! くらいまで落ち込んでおりました。豆腐メンタルめぇ……。
そんな折に、ローグライクハーフなら出来るかな、とひっそり遊び始めました。
一人で、自由に出来る。やってもやらなくても、誰の迷惑にもならない。その上楽しい。
癖を詰めたキャラで公式シナリオを一通り遊んでいる内に、少しずつ元気が出てきました。
やっぱり、キャラを作るって、TRPGって、創作って楽しい!
そんな気持ちが戻ってきてくれました。私にもまだ、残っていたんだと嬉しかった。
まぁこれらが一次創作か、と言われると違うんですけれども。
そんな創作意欲に元気が出てきた頃、FT書房さんがやっているメルマガであるFT新聞で「呪われた血族の牙城」が再配信されました。
ハロウィン大好きだしホラーも大好きで、勿論、吸血鬼も大好き。
とてもワクワクしましたし、「吸血鬼殺し」も「血の呪い」の設定もたまらない。
ミダスおじさんと、セレーナちゃんを生み出して……リプレイも書いてみよう、と思い立ちました。元々はどちらかというと文章畑に属する身でしたが、最近ずっと書いておりませんでしたし、戦闘シーンも苦手だからそんなに量は書けないだろうとは思いつつ、備忘録的にしたためよう、と書き始めましたらば。
筆が乗るわ乗るわ! ひゃっほー! たのしー!
その楽しそうな感じは、恐らくリプレイを読んで頂ければ伝わっているかと思います(笑)リプレイとして記事にするにあたり、整えようかとも思ったのですが、敢えてテンションはそのままにしておきました。お陰でいつも以上に文圧が強めなので、読みにくさはあるとは思うんですが……。
長々と書きましたが、何を申し上げたいかと言いますれば。
私の魂の恩人なのです、ローグライクハーフは。
このリプレイを書いてから、この天狗亭HPを立ち上げたいとか、それこそ本を出すぞ、イベントに出てみるぞ、とか今はとてもやる気に満ちていて、毎日楽しく暮らせています。恐らく、今の仕事に慣れて体力もついてきた、という面もあるのかもしれませんが。でも、心が、魂が病むと、治るまでに長い時間がかかるのです。だから、ローグライクハーフを生み出してくれたFT書房の皆様に、本当に本当に感謝をしています。
日々に楽しさ、ワクワク、冒険をくれた事。
時代の流れにも負けず、ずーっと自分たちの「好きなもの」「面白いもの」を作り続けてくれた事。
その熱意にも、敬意と尊敬を表します。続ける事の難しさは、出来なかった私にとって、身に沁みているからこそ。そしてその熱意に元気や意欲を貰っています。
私も、気恥ずかしさに負けず、流行なんて気にせず、「好きなもの」を「好きだ」って、言いたくて。それをふんだんに詰め込んだこのリプレイを一番最初の作品にしました。
そうは言っても恥ずかしいぜ~~!!!!!
でもずっと昔から、私の創作のエネルギーは色んな形の「愛」で、それがテーマだったのです。浅いんだけど、きれい事なんだけど。私の書きたい事だったのです。出来はさておき、それを書ききった事、世に出した事は、私にとって、大きな意味と意義になりました。まぁでも恥ずかしいんですけどねぇ!!(再三言う)
と、言う訳で、そろそろ何を言いたいか分からなくなってきたので締めます。
ローグライクハーフを作ってくれたFT書房さん、ローグライクハーフを教えてくれた友人Mちゃん、これを読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。
最後にひとことだけ!
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