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ドラゴンレディハーフ/若マスター武者修行編①:前編


 という訳で、ドラゴン退治に行くぞーッ!


 だけだと、読者の方が置いてけぼりになってしまいますので(それはそう)、改めて今回のシナリオ「ドラゴンレディハーフ」の概要説明を致しましょう。

 こちら、監修されている中河竜都氏のゲームブック「竜の血を継ぐ者」の世界観を元に制作されているそうですが、天狗ろむはそちらを全く知らないので、「ドラゴンレディハーフ」のみの情報でお送りします。いずれゲットして遊ばせて頂きたいとは思っております!


 さてさて。

 舞台は、主な舞台であるラドリド大陸を離れ、海を隔てた異国の地、ローレンシア王国です。

(一応、恐らくは少ないながらも大陸間を行き来する船便があることにしています。東洋さんのリプレイにもありますように、ポートス(地方…聖フランチェスコがある辺りですね)行きが月に1回とか? もしかすると、もっと少ないかもですが。何となくラドリド大陸がオーストラリアみたいな形なので、やや真ん中にあるとして、東に向かうとキョウ(日本)、北西に向かうとヨーロッパ的なローレンシア王国、西には寝子さんワールドでもあるウサギが住まうキャトルドがある、みたいな勝手なイメージがあります。全然違うかもなんですが、そうやってアランツァ自体の世界や大陸も広がっていくのが、脳内地図の見える箇所が増えていく感覚で楽しかったりします)(ドラクエなどで言うと、マップの未踏部分は灰色で、そこに向かうと色づいていく感じ、と言えば伝わるでしょうか…)


 「ドラゴンレディハーフ」はタイトルに名のある通り、邪悪なドラゴンが何と3体も出てきます。かつては神とも崇められていた種族だとの事ですが、再びローレンシア王国を支配すべく、ドラゴンを信奉する龍人を使い、ローレンシア王国のアラン王子と婚約予定であった隣国のヒルダ王女を攫って、王国を脅迫してきています。その攫われた王女を奪還するため、ひいては王国存亡の危機を救うため、冒険者である主人公が立ち向かうお話となっています。


 1回目の冒険では、攻撃部隊を指揮しているとされる〈凶龍(サベージ・ドラゴン)・グランフェルグ〉の討伐を依頼されます。そちらの龍は、今回のリプレイ時空では、東洋さんちのブラークさまとメロウちゃんさんが、既に討伐して下さっています。

 詳細はこちら!

 

 若マスター視点の今回のリプレイは、時間的には2回目の冒険から。

 攫われた王女がいるシャングリラ山に向かいたいところなのですが、前哨砦の監視塔が龍たちに占拠されています。その監視塔には、シャングリラ山に封印されていた龍が万が一出てきた場合の迎撃手段として、〈滅龍砲(ヴァスター・キャノン)〉という兵器が備えられており、前哨砦が敵に占拠された今では、シャングリラ山に向かおうとする冒険者パーティーに向けられ、何組かは全滅してしまっています。おいたわしや……。

 これを何とかしなければ、王女救出前に散ってしまう可能性が高いのです。

 そのため、イアン王子を筆頭に、王国の騎士たちと作戦を立てます。龍と龍人たちが強い敵意を抱いているローレンシア騎士たちが囮となって反撃を引き受けている間、冒険者からなる勇士たちが前哨砦に切り込んでいき、敵の指揮官を倒し、前哨砦を奪還する、というもの。


 この作戦には志願した冒険者たちが幾人かいる、という様子で描かれておりまして、ブラークさまとメロウちゃんさん師弟と、若マスターもここで(作戦としては)共闘する……という流れです。

 そんな感じで、若マスターの能力値などはこちら。

 既に8つのシナリオを踏破している、中級以上の冒険者となっています。

 適正レベル以上で挑みますので、強者らしさを是非発揮してもらいたいところ。

(一応、若マスターとしてはドラゴンレディハーフの3回の冒険をクリアしているのですが、その辺りの整合性をどうしようかな~と考え中です。「ドラゴンレディハーフ」1回目の冒険の経験点は保留にしておきました)

 

過去編なのでモノクロみ。画像圧縮すると赤めの色が飛ぶ……目の色はもう少し赤みがかった橙色です。
過去編なのでモノクロみ。画像圧縮すると赤めの色が飛ぶ……目の色はもう少し赤みがかった橙色です。

 【龍族】特攻の刀としてとても強いクサナギは、1回目の冒険を始める前に、ローレンシア王国の都市サプリメントを使用し、稀少な装備品ゲットチャレンジ【幸運ロール】で見事クリティカルしたので、入手しました!

 若マスター、基本は大剣使いなんですが、槍だとか刀だとかも使いこなして欲しい……ウェポンマスターみたいに……という強欲な願いがあったので、今回「刀使い」の実績も解除出来そうでやったー! しておりました。ただ、暫く上手く扱えず、手に馴染むまでは時間がかかった模様です。


 長々と説明のターンが続きましたが……ここから更にプロローグも長々とします。

 若マスターが何でそんなにツンツンドライなのか、その辺りもお伝えしないと、分かりづらかろうと思ってぇ……。どうぞお付き合い頂ければ幸いです。





~前奏曲(プレリュード)~


「ドラゴン退治に興味はないかい?」
 神聖都市ロング・ナリクのとある変わり者の貴族の館。そこに俺は招かれていた。開口一番、この館の主は何気ない様子でそんな事を言う。
「ワイバーン退治の間違いじゃないか。それならこの前、似たようなやつを倒したが」
「いいや、『ドラゴン』だ。……この大陸の、ではないがね」
 少し興味が湧いて、片眉が上がる。それを答えと受け取ったのか、優雅な仕草で席を勧められた。仕方なく、俺がどさりと腰かけてしまえば壊れてしまいそうな、上品な装飾の施された白い椅子にそっと座ってやる。この館の調度品は、前に訪れた時よりも白を基調としたものが多くなった。目の前の若い男……レイゲン・ヴァイスエーバーがサン・サレンでの「花嫁探し」の冒険を経て、連れ帰った花嫁の影響だろう。
「さっさと続きを話せ」
「まぁ急ぐな。ローレンシア王国の名前は聞いた事はあるかい?」
 レイゲンはメイドが持ってきたポットを持ち上げ、白磁のカップに中身を注ぐ。濃いオレンジ色の液体から、ふわりと花のような香りが漂った。
「そこからの輸入品だ。紅茶、というらしい」
「紅……というよりは橙茶だな。ポートスから船が出ていなかったか?」
「流石ダヴァラン、よく知っているね。その王国はずっと、邪悪なドラゴンと彼らを信奉する龍人を相手に戦っていたそうだ。どうやら一度は封印したようだが、それが最近破られたらしい。ドラゴンたちは配下の龍人を使って、ローレンシア王国の王子と結婚予定だった隣国の王女を誘拐し、ローレンシア王国を脅迫している。元は彼らが支配していた時代もあったらしいから、復権を目論んでいるんだろうね」
 レイゲンの吟遊詩人じみた口ぶりの説明を聞き流しながら、少しでも力加減を間違えればすぐに壊れてしまいそうな、細い取っ手を持ち口に運ぶ。
「……渋いな」
「おや、少し蒸らし過ぎてしまったかな。砂糖やレモン、ミルクを入れてもいいかもしれない」
「いい。……ドラゴンたち、といったな。何体だ」
「恐らくは、3……いや2体。敵軍を前線を指揮していた1体は、どうやら倒されたらしい。……ラドリド訛りの騎士を名乗る男と、銀髪のエルフの2人組によって」
「ふん。そいつらを探せ、もしくは連れて帰れ、が本当の目的か」
「察しがいいな、こういう時は。知り合いの息子さんかもしれなくてね。とは言え、頼まれた訳じゃない。単に私のお節介だ。だが……将来有望な騎士を亡くしたままにするには惜しい。勿論、人違いの可能性はあるし、ドラゴンと争っているような場所に行ってくれるような者が……」
「お前はいつも前置きが長い。いつ出発すればいい」
 苦味の強くなってしまった紅茶、とやらを飲み干し、そっとカップを受け皿に置くと、レイゲンは嬉しそうに微笑んだ。
「いやはや、君は一度教えるとマナーもしっかり守ってくれるね。言葉と態度は尊大なのに」
「褒めるか貶すかどっちかにしろ」
「褒めてるのさ。で、出発だが、早い方がいい。馬を貸すから、明日出てくれ」
「急だな。……まぁ、構わん。もうこの地には、俺の渇きを癒すような奴は見つからんようだからな」
「もう一杯いるかい?」
「いや、いい」
 俺の言う『渇き』は、身体のものではない。俺の内側、恐らくは魂を蝕むもの。
 それが果たして何故なのか、俺が双子として生まれ、魂が「奴」と半分に分かたれたが故なのか。それは分からない。

 ――渇いていた。常に、何かに。狂おしいほどに。

 俺が一瞬物思いに沈んだのを、妙に気の利くレイゲンが気付かない筈もなかったが、恐らくは敢えて言及することはせず、ポットをそっと撫でた。
「君が帰ってくる頃には、腕をあげておくよ。嗚呼そうそう、知り合いの息子さんの名はブラーク・オ・リエンス。黒髪で、整った顔立ちの青年だ。連れのエルフの娘さんの方は分からないが……」
「リエンス。……豪商じゃなかったか」
「元はね。今は貴族の席を手に入れた。だが、それをやっかむ連中もいるのさ。騎士に認めるに足る功績をあげてこいと、放り出された。クラーケンとは相打ちだったが、ドラゴン退治が出来たなら、もう充分なことだろう」
「……どうだかな」
 所詮は庶民の出の俺には関係ない話だ。そんな肝の小さい輩の集まりであれば、その騎士のドラゴン退治の話が真であれ、偽であれ、難癖をつけて認めない気もする。もしも実力がある者だとしたら、わざわざ遠ざけるような真似をするのもばかばかしい。
「話は終わりか」
「報酬は何がいい? 欲しいものであれば大体は用意できるよ」
「要らん。……恐らく、見つからんだろう」
 立ち上がって、レイゲンに暇を告げる。レイゲンは何か言いかけて、口を噤んだ。話好きな男だが、最後の一歩までは踏み出さない。そこが、俺にとっては助かる男だった。
「いいえ、ダヴァラン殿。きっと見つかりますよ」
 不意に声がかけられた。いつの間にか、部屋の入口に女が立っている。……俺に気付かれぬ程に気配を殺すとは、侮れない女だ。レイゲンが立ち上がって、歓迎するように腕を広げた。
「ラヴィネ! 私の麗しい花嫁が言うのだから、間違いない」
「ふふ、貴方様は信じて下さるのですね」
「無論だとも。私の直感はいつも正しいんだ。そして、ラヴィネの言葉も正しい」
 見つめ合い微笑み合う二人が、部屋の扉の前にいるものだから、それを眺めることしかできない。大恋愛と大冒険の末に結婚した二人であるから、まぁ、分からんではない。だが、二人だけの時に繰り広げて欲しいものだ。
「邪魔者は出ていきたいんだが?」
「嗚呼すまない、ラヴィネを前にすると私は舞い上がってしまってね」
「私もですわ、レイゲン様」
「嗚呼、ラヴィネ……」
「壁に穴開けて帰るがいいか」
「分かった分かった。準備はしっかりな、ダヴァラン」
「貴方に幸運が舞い降りますように」
 新婚夫婦に送り出され、館を出ると漸く肩の力が抜けた。貴族相手は、気心知れたレイゲン相手とて、どうも疲れる。
(ブラーク……「本物」であれば、少しは愉しめるか)
 俺の「渇き」は、戦う時だけ、特に強者を相手にする時だけは、忘れることが出来た。
 故郷の西方砂漠では、鎧砂虫という強くてでかいクリーチャーがいた。そいつは素材の宝庫のようなやつで、狩ることが出来れば村の暮らしも楽になる。村を代表する狩人として鎧砂虫を相手にしている時はまだ良かったし、「奴」とどちらが先に仕留められるか争っていた時も忘れられた。ある時、愛剣を突き立てたそいつを仕留め損ね、「奴」との数争いに負けた。「奴」に馬鹿にされて腹を立てた俺は、修行と称して家を飛び出し、冒険に出ては戦い続けている。死にかけたことも何度かあったか生き延びて、今や少しでかいくらいのクリーチャーでは「渇き」は癒されなくなってしまった。
(そろそろ潮時、なのだろう。ドラゴンでも「渇き」が忘れられなければ……)
 狂う前に、死ぬしかあるまい、と思った。そうでなければ、恐らく「奴」と同じ道を辿る。良くて賞金首、お尋ね者だ。死ぬならば、俺の心の如く乾ききった、故郷の砂漠が良い。鎧砂虫に一人で挑んで、最期の運試しも悪くないかもしれない。
(最後の依頼、になるかもしれんな)
 そう思うとどこか、胸の内が軽くなるような気がした。

***

「……見つかりはしますが、どうするかは、本人次第なのです」
 氷を閉じ込めたような瞳を細め、窓から砂漠エルフの姿を見下ろす女性が、小さな溜息をついた。その細い肩を、彼女の夫がそっと抱き寄せつつ、『渇き』に苦しむ男の背中を見つめる。
「大丈夫さ。私が見込んだ男だ」
「貴方の直感がそう告げるなら、間違いはありませんね」
「君は信じてくれるのに。なかなかあの男は信じてくれないんだ。頑固者でね」
「自ら変わろうと思わなければ、人は変わらないもの。けれど、いずれ変わる時は訪れるでしょう」
「そうだね。……時に、私も変わりたいと思ってね。紅茶の試飲にお付き合い頂けるかな、マイ・レディ?」
「ふふ、喜んで」
 二人は微笑み合うと、窓を離れる。
 彼にも、こうした平穏が訪れることを祈りながら。



 プロローグ、長くね???

 いやあのですね、やっぱりしっかり書いとかないと……と思ってですね。

 そして何気なくさらっと新キャラNPC出しちゃってるんですが、いずれどこかで出す予定の聖騎士で男装の麗人・スノウスノウさんのご両親です。

 レイゲンさんは聖騎士、ラヴィネ奥様は秘術師の設定です。レイゲンさんが家の掟である「花嫁探し」の旅に出た際にサン・サレンで出会い、何やかやあって結婚。そこに若マスターも一応絡んでいて、それで仲良くなった次第です。この辺りは特に書かないとは思います……が、思いついたら小説にはしたいかも。

 ロング・ナリクの貴族の一人ですが、保守的な貴族が多い中、外交を任されている……みたいな家です。外とやりとりするので比較的柔軟な思考の持ち主が多く、長子は都市の外に「花嫁探し」に向かう為、変わり者の一族と思われてそうです。この辺り、世界観設定などと衝突する可能性があるので、仮設定としています。

 スノウスノウさんが白雪姫モチーフなので、ドワーフの都市・カザド・ディルノーとも親交があったりする想定でいます。スノウスノウさんの従者は、7人のドワーフです。「戦場の風」を感じに行ったら、一人脱落しちゃったんですけどね……😢

 白雪姫モチーフですが、継母などではなく、スノウスノウさんは両親には溺愛されています。まだこの時点だと生まれてないのですが。


 2回目の冒険から、ということで、始まりをだいぶアレンジさせてもらいました。ナリクの貴族同士ならば、リエンス家の息子(ブラークさま)も知ってるでしょうし、外交官とすれば行方不明情報も、ローレンシア王国での情報もゲットしててもおかしくはないかな~と思いまして。

 でも何か齟齬ありそうな気がする~!!!!! という心配があるので、まるっと変わってるかもしれません。

 とりあえず、若マスターがブラークさまの事を事前に知っていたのは、スノウスノウさんちのからの情報でした、くらいが伝わっておけばいいかな~と思ったんですが、レイゲンさんが喋りまくるタイプでしたわぁ……。お喋りと寡黙なタイプの組み合わせも癖なのですみません。

 

 レイゲンさんは銀髪碧眼の優男風予定ですが、脳筋若マスターに気に入られるくらいなので、聖騎士としてはかなり強いとは思います。でも基本は知略タイプ。

 レイゲンさんも、今のマスターに変わりように一役買ってそうですね。基本的には、奥様に出会ってからの親交が深いブラークさまとメロウちゃんさんの鍛錬の賜物だとは思うのですが。

 ちなみに天狗ろむの作品は、仲良好ラブラブ夫婦しか出てきません。癖なのですみません。(n度目)

 マスターもいずれそうなりますが、今後、悪魔退治専門家のラブラブ老夫婦も出てきます。あと何ならマスターの両親も姉夫婦もラブラブです。

 いや多いな?? まぁ癖だからなんぼあっても良っか!!!!!!!!


 開き直って、次に進みます。

 何かプロローグ1、2みたいな事になってます。いつドラゴン退治行くんですか?(ごめんて!)



 ~助奏(オブリガート)~


 レイゲンの所有する船に乗り、海を揺られること数日。
 ローレンシア王国に近い港町に降り立つと、空は似ているようで、空気は違った。だが、異を唱えるのは肌感覚のみで、道行く人々に大差はない。俺の肌の色が珍しいのか、ちらちらと視線は感じるが、そこに悪意などは感じない。ラドリドの言葉でも書かれた看板を見つけ、店主に話しかける。
「ローレンシア王国へ向かいたい。どっちだ」
「おや、旦那。今ローレンシアに向かうのは止した方が良いかもしれませんよ」
「それを決めるのは俺だ」
「いやまぁそれもそうですな。ですが、今ローレンシアは龍との争いの最中です。腕に自信がおありのようですが……龍退治に行かれるのであれば、こちらの品など、いかがです?」
 誰にでもお見せするものではない逸品ですよ、と店主が取り出したのは、緩いカーブを描いた曲剣だ。鞘は黒く艶やかで、派手にはならぬ程度に装飾が施されている。
「キョウのカタナ、か?」
「流石は旦那、よくご存知で。クサナギという名を持ちます」
 剣、いやカタナを鞘からスッ、と引いてみると、磨かれた刀身に周りの景色が映りこむ程だ。手入れは抜かりなく行われているらしい。剣にはあまり見られない、荒々しく波の立つような刃紋には、思わず惹かれた。刀身には龍の紋章が刻まれている。恐らくは。
「龍殺しのカタナ……」
「ご明察でございます。ローレンシアに向かわれるのであれば、良き相棒となりましょう。いかがです?」
「……こいつの前の持ち主は?」
「えっ、ああ、いやぁ……どうも、金が要りようになったらしく……」
「死んだか。あるいは……狂ったか」
「めめめ、滅相もない! 別にいわく付きなどでは……」
「フ。気に入った。ラドリドの通貨でも構わんか」
 金貨の詰まった袋を投げ渡すと、店主は面食らいながらも受け取った。中身を一瞬見はしたが重さだけで枚数を解したらしく、問題無かったようで毎度あり、と笑顔になった。
「ローレンシアへ行くなら、街の端から馬車が出ています。街道の封鎖がとけましたのでね」
「そうか、分かった」
「旦那ほどの猛者であれば大丈夫だとは思いますが……そいつは龍の血を求めるそうです」
「……乾いた者同士、仲良くやれそうだな」
「は?」
「気にするな」
 怪訝な顔をする店主に別れを告げ、従者たちと馬車に乗り込み、ローレンシアへと向かう。街道はまだ、戦闘の痕が色濃く残っており、未整備に近かった。ガタガタと揺れる車内でクサナギを、レイゲンの従者である太刀持ち・クリフトに渡しておく。いわく付きと聞いていても尚、特に恐れる様子もない。恐らくはレイゲンが胆力のある者を寄越したのだろう。今回、異国の地での冒険の為に、従者を連れていくつもりは無かったのだが、とある塔で出会ったゴブリンのランタン持ち・ギャン・ブラーと、前回の冒険の生き残りの剣士・ヴィルとワイズは勝手についてきていた。
「相手が龍であれば使う。合図を出したらすぐに渡せ」
「はっ、かしこまりました」
 恐らくこいつも貴族の出だろうに、こちらへの不満や反意は一切見受けられない。レイゲンに任された職務を全うすべく、矜持は二の次といったところだろうか。真面目なことだ。
「なぁなぁ、旦那がドラゴンを何分で倒せるか賭けようぜ?」
「……ギャン。貴様は本当に賭け事が好きだな」
「へっへ、生き甲斐ってなもんですよ」
「うーん……5分かなぁ」
「いや、3分……待て、2分でどうだ?」
「ヴィル、ワイズ、乗るんじゃない。そもそも貴様らも生き残れるか分からんぞ」
「俺たち、マグドレイクのブレスだって避けてみせたんですから」
「ドラゴン退治だって似たようなもんだ。旦那がいらっしゃるんだしな!」
「自分の身は自分で守れ。子守りは出来んぞ」
「……そう言いつつ、庇ってくれますよねぇ」
「旦那、そろそろ世話焼きの自覚、持った方が良いですって」
「うるさい、たまたまだ。命知らずの馬鹿者どもめ」
 ひと睨みしたあと、寝る、と目を閉じると、従者たちはこそこそと主を賭けの対象にしはじめた。不遜な奴らである。
(全く。……倒せる前提なのか)
 確かに、倒せないとは思っていないが。それでも、その信頼が重くのしかかる。俺は自分の都合で冒険をしている。従者たちは妙に俺を買っているようだが、そんな立派な男ではないのだ、俺は。

 馬車はガタガタと軋みながら、ローレンシア王国を目指していった。

***


 日が沈み切る前には目的の街へと辿り着き、大仰に歓迎された。
 空いている宿は思ったよりすんなり見つかった。冒険者の一団が来るには来るが、敵の本拠地に向かう途中で、敵に占拠されてしまった前哨砦の兵器によって、ほぼ全滅させられてしまう事が多く、空きが出るのだという。
(本来、龍相手の兵器だろうに、皮肉なもんだな)
 翌日、宿の亭主に聞いた冒険者の登録所に向かう途中で、どうも迷ったらしい。道を聞こうにも、俺の顔を見ただけで愛想笑いで立ち去られるか、ラドリド訛りの俺の言葉がなかなか分からないようで、上手く聞き出せない。表通りを外れて路地に入ると、運良くラドリドの文字の看板を見つけた。
(喫茶「ヴァルキュリア」……)
 「戦乙女、か」
 その名の冠された迷宮で、初めて従者を失ったのを直ぐに思い出す。アランは、戦乙女の庭で俺を待っている。あまり早く来るなとは言われていたが、直に会うことになるかもしれない。
「冒険者さん、顔色が悪いです。うちで休まれてはいかがですか」
 青いバンダナを巻いた若い男が、声をかけてきた。その奥で、線の細い印象の女が心配そうにこちらを見ている。レイゲンに淹れられた紅茶に似た香りが鼻を擽るが、あの渋い味を思い出して思わず顔をしかめてしまった。
「いや、いい。冒険者の登録所を探している」
「嗚呼、それなら、この道を真っすぐ行って、大きな通りに出たら右に曲がると見えてくる筈ですよ。……ラドリドからいらしたんですか?」
「それがどうした」
「ラドリド出身の方に最近も出会いまして、うちに泊まっていらっしゃるのです。遠路はるばる、ようこそローレンシアへ」
(……偶然、か? それとも、何かの罠か)
 しかし、目の前の男女からは怪しげな様子は見受けられなかった。それどころか、宜しければ、と焼き立てだというスコーンを手渡されてしまう。毒の類でもなさそうだ。荷物になるのですぐに食すと、なかなか悪くはなかった。しかし、どうにも口が渇く。飲み物が欲しくなるのは否めなかった。
(本場の紅茶であれば、レイゲンのものよりは美味いかもしれんな)
 あとで礼がてら、頼むことにしよう。そう思いつつ、教えられた通りに道を進むと確かに登録所があった。人の出入りが激しく、どうにも騒がしい。何か大きな動きがあるようだ。登録所の受付に声をかける。
「ここで冒険者を募っていると聞いたが」
「えぇ、腕に自信のある方であれば大歓迎です。これから、イアン王子自ら軍を率いて、前哨砦奪還戦を行うそうなのですが……」
「そうか。志願する。ついでに、案内役を雇いたいのだが」
「ありがとうございます。案内役については、騎士の方にお声がけしておきますね。では、お名前を……」
 羽ペンを借りて書きなぐるように署名する。
「ダヴァラン、殿ですね。もしやラドリドからいらっしゃっておりますか?」
「そうだが」
「では、もしや、ブラーク・オ・リエンス殿とメロウ・ディレン殿をご存知ですか?」
「……ブラーク?」
 レイゲンから探して欲しいと頼まれていた名前ではなかったか。まさか探す前に、そちらから出向いてくるとは。
「〈凶龍〉討伐の認定と、次の作戦への召集命令書が出ているのですが、どちらの宿にもいらっしゃらないのです。ご存知ではありませんか?」

***

 命令書を預かり、先程の喫茶店に向かう。恐らくは、そこだ。
 ドアを開けると、カラン、と軽やかな音を立てる。先程の、店主であろう若い男に声を掛けようとした時だった。
「こんにちは。ラドリド大陸から来たんですよね?  少しお話をしたいんですけど!」
 銀髪のエルフの子どもが、口元にパンくずを付けたまま、こちらに手を差し出していた。視線をちらりと店内にやれば、線の細い女性がこちらを心配そうに見ている。そのテーブルには、食べかけのパンやスープがそのままになっていた。食事中に席を立つとは、いったいどんな躾をされているというのか。
「お前に用はない。さっさと戻ってパンを食べろ」
 龍との戦中の国であればより一層、子どもは貴重だろう。沢山食べよく育つべきに違いない。それに俺の用事は別にあるのだ。子どもなどに構ってなどいられない。
「おい、ブラーク・オ・リエンスとメロウ・ディレンは何処だ」
 ラドリド出身の者が泊まっていると言っていた。それが確かなら、宿を探しても見つからないのは頷ける。表通りから離れ、しかも喫茶店……本来は宿泊施設ではないからだ。
 2階にでもいるのかと踏んでいたのだが、何故か先程の子どもが「私だけど」と薄い胸を張っている。ブラークの連れはエルフの女だとか聞いていたが、そいつの子どもか? それとも、ブラークとそのエルフの子どもの可能性もある。が、いずれにせよ、龍を屠ったというのであれば、この子どもでない事はまず間違いないだろう。
「嘘をつくな、おおかた見送りの子供なんだろうが。さっさと街に帰れ。大人を困らせるんじゃない」
 子どものままごとなんぞに付き合ってる暇はないのだ。しっし、と追い払おうとしたが、子どもはキイキイ怒っている。と、そこへ。
「何事かな」
 背後から、声を掛けられる。
 子どもが「ブラーク」と声をあげる前に、分かった。
 「渇き」が一瞬消えたのだ。
 強い奴の、気配だった。
(お手並み拝見と行かせてもらうぞ)
 振り向きざまに背中の剣を抜いて、斬りかかる。これが「本物」であれば問題ない。「偽物」であれば、「本物」を探したがっていたレイゲンが残念がるくらいだ。
 ドォン、と石畳が弾ける程の衝突したが、手ごたえはあった。
 思わず口の端が上がりかけたが、すぐに唇を引き結ぶ。全体重をかけての不意打ちだったが、反応は良い。重さは恐らく俺が、速さは恐らく、目の前の男の方が。
 土煙が晴れると、こちらを冷静に観察する黒い眼差しとかち合った。
「……ふん。俺の一撃を真正面から受けるか」
 避けることも可能だったのだろうが、敢えて受けたのだろう。正々堂々の騎士っぷりは、レイゲンに負けず劣らずだ。
「貴公、白昼堂々と味方に切りかかるとは些か趣味が悪いのではないかな」
 そんな卑怯とも見える不意打ちを受けて尚、こちらを味方とするのには、少し笑ってしまいそうになった。人が好過ぎるのではなかろうか。それとも、騎士に叙任される為には、善性を常に意識せねばならんのか。難儀なものだ。
「実力のない味方など敵と同じだ。甘いな、坊ちゃん」
 俺の一撃を受けられたのであれば、実力は申し分ない。ただ、どうにも甘いのは気にかかる。味方ならず敵にも情けをかけそうだ。それでは、俺の「渇き」は癒されないし、戦場では命取りになる可能性だってある。
 龍を既に1体退治したのであれば、功績としては申し分ない、とレイゲンも言っていた。ならば、俺の乗ってきた船でさっさと故郷に帰るのが良いだろう。目的は果たしているからだ。とは言え、登録所の連中には、命令書を渡してくるよう頼まれていた。これを渡した上で、帰らせるのが一番良いだろう。
「伝令だ。死にたければ来い。死にたくなければ尻尾を巻いて帰れ」
 名は知っているので遮る。腕は確かだが、剣筋には個性が出る。真っすぐで基本に忠実な……いや、奥に秘めた荒々しさを、わざわざ封じている。幾度かやりあえば、ボロは出そうだが、騎士たらんとしているのがやや惜しまれた。貴族なんぞの坊ちゃんでなければ、もっと自由に剣を振れるだろうに。
「俺の名はダヴァラン。まあ二度と会うまいがな」
 聞かれたからには名乗っておくが。レイゲンからの頼まれ事でなければ、もう関わりを持つことはないだろう。あの子どもがメロウ・何とか、なのであれば、騎士たらんとする坊ちゃんがわざわざ危険を冒すこともない筈だ。

 そう、思っていたのだが。

(……何で来ている……? 船賃が足りなかったのか?)
 ローレンシア軍の仮設作戦室とされた、大きなテントの中に、騎士と子どもが入ってくる。思わず舌打ちをしてしまったが、二人組は前方の王子に目線を向けていたので、気付くことはなかったようだった。



 やっっっっとローレンシア王国につきまして、冒険の始まりです。なっが!

 そして、東洋さんのリプレイのシーンと同じ時間軸の部分は、台詞などを引用させて頂きました(ご本人にご了承済みです)。

 突然ブラークさまに斬りかかる狂戦士のような若マスターはこちら!(?)



 本人はこんな事を思っていました、という裏話的な感じでお送りさせて頂きました。

 あまりにも言葉選びがバッドすぎますよね……。

 ちなみに、兄の方は嫌味の方向性で言葉選びがバッドです。似た者同士……と言うと異口同音に違うと返される訳ですが。


 あとついでにクサナギゲット&従者紹介。若マスターは目つきも悪けりゃ口も悪いので第一印象は大抵マイナスで、本人もドライで冷たいつもりなんですが、随所に優しさとか世話焼きな部分が滲み出ているので、付き合いが長くなるとツンデレだとバレて、従者たちには妙に慕われているし勝手についてくる、みたいな感じです。伝われ~!!

 

 あまりにも冒頭が長くなってしまったので、今回はここまでにします!

 中編をできごと1~中間イベントまで、後編をそれ以降~最終イベントまで、という感じになる予定です。

 東洋さんのリプレイと共に、お楽しみ頂ければ幸いです。

 それでは、次回に続く!

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