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ドラゴンレディハーフ/若マスター武者修行編①:序

更新日:6月29日


 ――渇いていた。常に、何かに。狂おしいほどに。



 

 この冒険回想録は、若き日の〈天駆ける狗〉亭マスター・ダヴァランが、彼にとっての「オアシス」を得るまでの、武者修行を主とした冒険譚である。


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▼はじめに

 ここから始まる物語は、1人用TRPGローグライクハーフのd66シナリオ『ドラゴンレディハーフ』のリプレイ小説となります。天狗ろむは相変わらずリプレイを書くのがいまいちつかめていないので、読みにくさ等はご容赦頂ければ幸いです。ルールの独自解釈(誤解釈)がある場合がございます。


 加えて、今回は特殊なリプレイとなっており、「ドラゴンレディハーフの2回目の冒険のみ」となる上に、過去に起きたできごととなっています。2回目のみの理由は後述いたします。

 若い頃のマスターが主人公となりますが、今の優しい紳士然とした態度に至る前は、「かなりのぶっきらぼう、乱暴者」でございました。ギャップがやばいと思います。

 よっしゃー!! という方であれば特にお楽しみ頂けるかと思います。



 元となった作品…ドラゴンレディハーフ

 シナリオ作者……紫隠 ねこ 氏・杉本=ヨハネ 氏

 監修………………中河 竜都 氏

 購入先ページ……https://ftbooks.booth.pm/items/5138980


 無料の基本ルール+1stシナリオ『黄昏の騎士』のURLはこちら!→ https://ftbooks.booth.pm/items/4671946

 


 今回のリプレイは、キャラクター作成は割愛します。 

 リプレイ本編はよ!というお方は、もうしばしお待ちくださいませ。

 



▼目次

   0話:ここ。情報掲載、目次、プロローグのページ。

 


▽(2回目の冒険)





~序曲(オーバーチュア)~


 その日の〈天駆ける狗〉亭には、音楽がありました。
 一つは、看板娘のディジベラとオーク娘のドミニアが、庭に突如として生えた巨大な豆の木を登った先で、巨人の夫婦から譲り受ける形になった、優しげな魔法のハープの音。
 もう一つは、どこか遠くの異国の海を思わせる、軽やかなリュートの音。
「……あはは、凄いよこの子! ちゃんと私の音に合わせてくれるし、いい音。良いもの貰ってきたね」
 精緻な紋章の描かれた涙滴型のリュートを奏でていたのは、銀髪の美しい女性エルフです。その前の椅子に座って演奏に聴き入っていた看板娘のディジベラは、はっと我に返って拍手をしました。
「凄く素敵だったわ、メロウさん!」
「そーう? 気に入ってもらえたなら良かった」
 メロウと呼ばれた彼女は、嬉しそうににっこり笑います。ディジベラより年上の雰囲気ではありますが、笑顔には無邪気さも含まれていて、美しさと可憐さを同時に持つ不思議な魅力を持ち合わせていました。
「また腕を上げたんじゃないか?」
 出番を終えた魔法のハープを丁寧に片付けながら、マスターも彼女に声を掛けます。メロウは肩を竦めてみせました。
「褒めても何も出ないよマスター。それに、チャマイの人は今回も手強かったし」
「おや、そろそろ顔なじみになっていてもおかしくないだろうに」
「それがさー、酒場で歌ってて場も盛り上がってきてこれからって時に、『時間です』だってさ! ほーんと嫌になっちゃう!」
「次はアンコールの嵐でねじ伏せてしまえばいいさ」
「……はー、そういうとこは変わってないよね」
 少し砕けた様子で、二人は話をしています。メロウとマスターは、旧知の仲なのだとディジベラは聞いていました。父であるマスターが冒険者をしていた頃、遍歴中の騎士であった、かのロング・ナリクの豪商かつ貴族の当主ブラーク・オ・リエンスと弟子であったメロウと出会ったというのです。リエンス家には、ディジベラが名代として年末に挨拶に向かいました。その時にも少しだけ、父の話を聞いてみたのですが、「一番は本人から聞くのが良いだろう」と、当主様には笑ってはぐらかされてしまったのでした。
「……ねぇ、パパ。メロウさんたちと会った時の話、聞きたいわ」
「あれ? まだ話してないの?」
「いやまぁ……若気の至りの時代の話だからね」
「確かに、今じゃ考えられない程、尖ってたもんね」
「尖ってた? パパが?」
「ぐっ……それを言うなら君だって変顔を……」
「変顔? メロウさんが?」
「この話やめよっか!? マスター、何か飲み物作ってきて! 甘いやつ!」
 そそくさと話を切り上げ、メロウに注文されたマスターは台所へと向かってしまいました。ディジベラは、いつも優しく穏やかな父の姿と、いつも明るく素敵なお姉さんであるメロウの姿しか知りません。自分が知らない、かつての二人。それが何だか少しだけ寂しく、悔しくなります。……そうは言っても、自分が生まれる前の話ですから、知らぬのも無理はないのですが。
「……あ、そうだ。メロウさんに相談というか、見てもらいたいものがあるの!」
「何々? メロウお姉さんに何でも聞いていいよ」
 父がまだ台所で飲み物をこしらえているのを確認してから、ディジベラは一冊の古びた本を持ってきました。興味津々なメロウに差し出します。
「冒険譚を置いてある本棚の奥に、置いてあったの。でも、中身が読めなくて……エルフ文字だとは思うんだけど」
「そうだね、エルフの文字。……これ、砂漠エルフのじゃないかな」
 少し癖のある、殴り書きめいた文字を、メロウはそっとなぞります。メロウ自身は砂漠出身ではなく、北方の出ではありますが、吟遊詩人として各地を回り、詩を集めてもいますから、ディジベラよりは読めそうでした。
「砂漠エルフの文字? ってことは……」
「……ははーん、これ、日記だよ。マスターの若い頃のね」
「やっぱり? 流石に読んだら怒られちゃうわよね……」
 ディジベラも、そうではないかとは思っていたのですが、もしも合っているなら父に恐らく没収されるだろうと思って、そのまま隠しておいたのです。父があまり話してくれない若い頃の話は気になりますが、流石に家族とはいえ日記の中身を勝手に読むのは、宜しくはないでしょう。少なくともディジベラは読まないで~! と思ってしまいます。
「いやでもさ、読むまでは誰の日記なのか、分からないじゃない?」
 一方、メロウは玩具を見つけた子供のように悪戯っぽく笑って、表紙をめくりました。力強い筆致の文字は、かつての荒々しかったダヴァランと印象がぴったり合います。日付と、内容は数行のみの簡素なもののようでした。
「じゃ、じゃあ1ページだけね?」
「こっそり読めばバレないバレない。何々……」
 ディジベラも気になるのは確かです。メロウが一文字ずつ、ゆっくりと読んでいくのを、じっと聞き入っておりました。ところが。
「ちょっと! マスター! どういうことよ!」
 読み進めていたメロウは、その内にぷんすかして日記を持ったままマスターの所に駆け寄ってしまうではありませんか!
「何だい今度は……ってそれは!?」
「これ、私たちと出会ったとこよね? 『〇月△日、騎士と出会う。悪くない』ってどういうことよ! 私のことも書きなさいよね!」
「いやあの、それは本当にすまなかったが、読み上げるのは勘弁してもらって、返してくれないか?」
「これ以降もブラークのことと、ネロリムニさんに出会ったとこからはそればっかり! 大恩人の私に対して酷いんじゃない?」
「分かった、きちんと書き直すから返してくれ頼むから」
 冷や汗をかきつつ必死なマスターの珍しい姿に、ディジベラは目を丸くしています。簡素な報告書の如き内容だったので、そこまで恥ずかしがる事でもないように思われたのですが。その簡素っぷりのせいで、まるで存在を無き者扱いされてしまったお怒りのメロウは、半眼のままマスターをびしりと指差しました。
「この際だから、直すついでに全部ディジベラちゃんにも聞かせてやりなさい」
「いやその」
「返事は?」
「……はい、だったな。分かった、降参だ」
 深い溜息をついて、マスターはメロウに頭を下げました。メロウが差し出した日記を受け取ると、表紙をそっと撫でます。
「すまなかった、メロウ。そして、すまないね、ディジー。いずれ、話してやらねばと思っていたんだが……少し、怖かったんだ。かつての『私』はメロウに叱られても無理はない。かなりの愚か者だったから、失望されてしまうかと思って」
「……ううん、そんなことしないわ。だってそれもパパだもの。そこも含めて、でしょう?」
 ディジベラは父を見上げました。今の父は誰に対しても自慢できる、立派な父です。けれど、父にだってディジベラくらいに若かりし頃があり、悩みや苦しみもあった筈なのです。それを乗り越えて、今の素敵な父がいるのですから、きっとそれらは父にとって必要だったのでしょう。
 父は一瞬目を見張り、そして微笑みました。
「……嗚呼、そうだね。君の母さんもそう言ってくれて、私を受け入れてくれたよ」
「お母さんが……」
「受け入れてくれるまでに十年くらいかかってたけどね」
「ぐう。ま、まぁその話は追々。……かつての私は、自分の事ばかりを考えていた。短慮の所為で失うことの方が多かった。だから私の話は、ディジーが憧れているような『冒険譚』ではないんだ。……だが、『冒険』がどんなものかを知ったディジーにならば、話してあげよう。……メロウより上手くはいかないだろうがね」
「こっちはそれで稼いでるの。比べる暇があるならとっとと話しちゃいなさい。訂正はいくらでもしてあげるから」
「はは、頼もしいな。……さて、どこから話したものか……」
 ダヴァランは、ここではない遠くを見つめたあと、手元の日記のページをめくりました。それは『追憶の日記帳』。砂漠をあてもなく彷徨うかの如く、心の渇きに満ちた日々と、彼にとっての「オアシス」である、妻ネロリムニに出会う頃までが記された、苦く苦しい記録でもありました。
「そうだな……やはり、この日記を手に入れた辺りから話そうか。メロウとブラークに出会った頃だ。ラドリド大陸ではない、ここから離れたローレンシア王国。人間を支配しようとするドラゴンと竜人におびやかされた国を助けたんだ。主にブラークとメロウが、だがね」
「そのお話、ブラークさまの武勇伝として、メロウさんがしてくれたことがあるわ。パパもそこにいたの?」
「嗚呼、ドラゴンも倒したよ。証拠は、と言われると少々困るんだがね。だが、かつての『私』にはあまり強敵とは言えなかったな。それに、『滅龍の英雄』の称号にもあまり興味はなかった。それは聖騎士を目指すブラークの方が必要だっただろうから」
「……そうだね」
 メロウがそっと目を伏せました。その頃のメロウも、苦悩の時期でもありました。メロウは言葉少なにリュートを手に取ると、そっと弦に触れます。溜息のように零れ落ちる音色は、少し哀しい色をしているようにディジベラには思われました。
「今になって思うと、そこでブラークと……勿論、メロウと出会えたのは、私にとってはとても幸運だったんだ。当時の私は、見所のありそうな騎士を見つけて『悪くない』としか思えなかったようだがね」
 苦笑を零しながら、いつもは聞き手に回るダヴァランが、落ち着いた低い声でぽつぽつと語るのを、ディジベラは黙って聴き入りました。時折、メロウに茶々を入れられながら。
〈天駆ける狗〉亭の、少しだけ長い夜が、リュートの音に彩られながら、そっと始まったのでした。



 すみません、東洋さんちのメロウちゃんさん書かせて頂くのが楽しくて長々しちゃいました(そしてだいぶ自由に書いちゃったので、メロウちゃんさんらしからぬ点があったら大変申し訳ありません! でもメロウちゃんさんにお姉さんしてもらいたかったんじゃ……)(強欲)


 という訳で(?)、次回から始まるリプレイは、なんと、東洋夏さん宅の素敵冒険者・現在はリエンス家当主のブラークさまとメロウちゃんさんとの出会い編を兼ねております!

 コラボというか、クロスオーバーというか……同じ時間軸での冒険としてお送りいたします。


 ドラゴンレディハーフのメインストーリーとしては、東洋夏さんのTwitter(現:X)で連載中のブラークさまとメロウちゃんさんのリプレイを是非ご覧ください!

 1回目の激闘はこちら! https://x.com/summer_east/status/1924073313770631403

 現在、2回目の冒険まで終了しており、その途中で若マスターも先行して出して頂いております。

 2回目の死闘はこちら! https://x.com/summer_east/status/1934233882431471838


 いやしかし、念のために……と先に若マスター登場シーンの部分を拝見させて頂いたのですよ。なのですが、修正ゼロなんですよ。何かもうドンピシャ過ぎましてね。


 私が書く前にあの解像度で書けちゃうんですよ、凄くないですか???


 作者が一切書いてないのに??? どういうこと??? 天才ってこと???(それはそう)

 むしろ描写激上手人(びょうしゃげきうまんちゅ、描写が激しく上手な人のこと)の東洋さんより若マスターをカッコよく書けるか自信が全くありません。作者なのに!(笑)

 そして実はすんごいファンブル祭りだったのですよね……あんなにイキってかっこつけてるのに……。うちのこで一番のファンブラー説があります。まぁ冒険も一番多くしてるので分母も多い感じではあるのですが(マスターをどうしても冒険した上でレベル30くらいにしたくて、ドラゴンレディハーフを含めて9つほどシナリオを踏破し、23レベルまでにはなりました。若マスターシリーズもこうして始まったので、それらのリプレイいずれ……そしてもう少し育てたいですね)。


 そんな裏話的な話もしつつ、ブラークさまとメロウちゃんさんの冒険の一方、若マスター視点では……というような感じでお楽しみ頂ければ幸いです。

 あまりにも尖っているツンツン武闘派は何を思ってあんな事を言ったりしたのか、辺りも補足というかフォローさせて頂ければと思ったり。わ、悪い奴じゃないんですよ……!


 本編は次回から!

 このお話から、d66シナリオであっても前編・後編にしようと思っているので、ややお時間を頂く可能性がございます。でもなるべく3日に1回の更新は保ちたいところ。

 お待ち頂く間に、是非「ドラゴンレディハーフ」でドラゴンたちに挑んで頂くか、東洋さんのリプレイをお楽しみ頂ければと思います!

 

 それでは、良き冒険のあらんことを~!

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