ローグライクハーフ Advent Calendar 2025用 うちよそ交流プチ企画 『〈天駆ける狗〉亭の前夜祭』
- 管理人 天狗ろむ

- 2025年12月24日
- 読了時間: 25分
こんにちは、もしくはこんばんは。
初めまして、あるいは改めまして。
てんぐじゃないよ、あまくだよ。
天狗ろむと申します。ローグライクハーフ大好きファンの一人です。
こちらは、月さん主催の『ローグライクハーフAdvent Calender 2025』企画への参加作品です。
まずそもそもアドベントカレンダーとは!
アドベントカレンダー (Advent calendar) は、クリスマスまでの期間に日数を数えるために使用されるカレンダーである。待降節の期間(アドベント、イエス・キリストの降誕を待ち望む期間)に窓を毎日ひとつずつ開けていくカレンダーである。すべての窓を開け終わると迎えたことになる。
by ウィキペディア先生より。
子ども向けのものだと、カレンダーの窓にお菓子が1個ずつ入っていて、開けていく楽しみ、クリスマスが近づく楽しみが味わえるものですね。もういくつ寝ると~みたいな。
それの、記事バージョンの企画となっています。参加者の皆でローグライクハーフ関連記事を書いて、その日になると記事が読めるという企画です。
※この記事は、アドベントカレンダー上ですと24日に設定してるので、そんな事知ってますよな事だとは思うのですが、この記事単体で読む場合だと何のこっちゃとなりそうなので念の為の補足です。前置きはさておき。
今回のアドベントカレンダー企画、更にワクワク出来るといいなと思って、うちよそ交流企画を考えてみました。
1:参加者さん&使わせて頂くローグライクハーフの主人公キャラクターを募る
2:参加者さんの、使わせて頂く主人公のご担当を決める(ルーレット)
3:ご担当主人公を使って、アドベントカレンダー用記事を書く
というものです。企画者の私以外は、どなたがどのキャラをご担当かは記事を見るまで分からない仕様になっておりました。
今回は、蒙太辺土さん、月さん、東洋夏さんの3名様にご参加いただきました!
ご協力ありがとうございます!
ルーレットにより、蒙太辺土さんのご担当は、月さんちのカサブランカさん。
月さんのご担当は、東洋夏さんちのノックス・オ・リエンスさん。
東洋夏さんのご担当は、拙亭のフィーダさま。
そして私は、蒙太辺土さんちの淡虎縞のニャンコダガーさんになりました。
私からは、ラドリド大陸におけるクリスマス的なもの、冬至祭でもある〈聖樹祭〉をでっちあげまして(!?)、その前夜の〈天駆ける狗〉亭の賑やかなひと時を、お話としてお届けしたいと思います。
それでは、暖かくしてお過ごしいただきながら、温かい飲み物と共に、お楽しみください。
(※これ書き上げた後に、アランツァの12月30日の後に5日間太陽や月や星の出ない夜の日が続く『不運の日々』なる情報を入手しました。こんなに穏やかにお祭りしてる場合じゃなさそうですが、この『不運の日々』を乗り越える為の祝祭みたいなものだと思ってやってください)
(※こちらのお話は厳密にはシナリオのリプレイでは無いのですが、ローグライクハーフ関連作品ということで、ロゴを拝借致します。問題あれば直します!!!)
〈天駆ける狗〉亭の前夜祭

その日は〈聖樹祭〉の前夜で、その前の日に雪が積もった日でした。
〈聖樹祭〉は、寒い冬を乗り切る為の薪をくれる、樹々に感謝を捧げる日です。元は、寒さ厳しい冬の時期、〈冬の女王〉が猛威を振るった際に、聖なる〈トレント〉が自らの腕を差し出し薪にして、人々を温めた事を由来するとか何とか……とは、とある〈早耳〉の情報通の言。
数日前、寒さに弱い〈天駆ける狗〉亭のマスター・ダヴァランは震えながらも、獣使いである青年リュコ、元剣闘士の牧師ウルーソ、そして村中の木こりのドワーフたちと力を合わせ、村の広場に大きな樫の木を運んできていました。樫の木に飾り付けを施すのは、ドワーフの奥方やディジベラたちの仕事です。〈吸血鬼〉の蔓延る〈還らずの森〉が近い為、エンベニーの村の聖樹は、輝く銀細工で飾られていきます。そこに、からくり術師・シェルムの作った、妖精を模したからくり人形も加えられ、聖樹はどんどん賑やかになっていきました。あとは、聖樹を聖樹たらしめる、白布を掛けるだけ。
ところが。
「パパ、大変! 聖樹用の白布が、虫食いだらけ!」
「さては、あの時か……!」
かつて〈からくり都市チャマイ〉を昆虫たちが襲った事件がありました。その時、ディジベラとリュコがチャマイの危機を救ったのですが……(その時の冒険譚は、またいずれ)。
エンベニーの村にも、昆虫たちがやってきておりました。大きな昆虫たちは、村に残った元冒険者でもあるダヴァランとウルーソを筆頭に、村の者総出で撃退したのですが、小さな虫たちまでは倒しきれなかった様子。ボロボロになった白布では聖樹が可哀想だと、今年は使わない事になりました。
「ちょっと物足りないけど……もう間に合わないし、仕方がないわよね」
「さ、早く宿に帰ろう……寒くて敵わんよ」
「もう、パパったら。まだまだこれから寒くなるのに」
「嫌な事を言わないでくれ、ディジー……」
心底嫌そうにダヴァランは呻くので、ディジベラは苦笑を零します。砂漠出身のエルフである彼は、暑さには強いのですが、寒さが何よりの天敵なのでした。
✨🎄✨
その日は〈からくり都市チャマイ〉近郊の山村・エンベニーに居を構える宿〈天駆ける狗〉亭の番犬、シュテルンがよく吼える日でもありました。
ウォン、ウォンと二声。これは、何度か〈天駆ける狗〉亭に来ている人物がやってきた時の合図です。賢いシュテルンは、宿を訪れた客の顔をしっかり覚えていられるのでした。
「おーい、ディジー! ダヴ! ザンジア様が帰ってきたぞ~う!」
大音声で呼ばう声に、ディジベラは笑顔を、ダヴァランはげんなりした顔を浮かべました。
「ザンおじさん! 久々ね!」
ザンジアと名乗っていた壮年の人間族の男は、ニカっと笑いました。大きな袋を担いでいます。それを下ろすと、駆け寄ったディジベラの頭をぽんぽん撫でました。
「おうおう、元気にしてたかディジー。おっ、また美人になったんじゃないか?」
「あはは、私も結構冒険したからね」
「何ッ!? ダヴ、お前もとうとう子離れ出来たのか!」
「いくつかは仕方なく、だ。まぁ、ディジーも成長したしな。……で、今度は何を持ってきた」
普段は穏やかなダヴァランが、剣呑な目つきです。盗賊(彼が言うには「浪漫を求めるお宝ハンターだ!」だそうですが)を生業としているザンジアは、ダンジョンから持ち帰ってきた『魔法の宝物』など、持ちきれないものや自分では使わないものを〈天駆ける狗〉亭に預けているのでした。ザンジア用の倉庫が一部屋あるくらいですので、これ以上増えてもらってもダヴァランとしては困るのです。
「えーっと、『魔法の大盾』だろ? 『憤怒の鉄槌』だろ? 『鷲の仮面』だろ? これが『援軍の角笛』で、こっちは『魅惑の香水』。俺には不要なんだな、既に魅惑的だから。んで、これが『屠殺剣』で……あ、これ! ダヴにいいぞ、『暖炉石』!」
袋の中からガシャガシャと多様な品物が出てきます。その中の石ころを一つ、ダヴァランに放り投げました。ダヴァランがしげしげと眺めてみますが、名前の割に何とも普通の石です。
「……ただの石だが」
「あれぇ? 俺が拾った時はぽかぽかして温かかったのに……ってあー! 捨てるな捨てるな、折角この『伝説のお宝ハンター』ザンジア様が拾ってきたんだから! プレミアつくぞ!」
「つかんわ!」
ザンジアとダヴァランは旧知の仲だそうで、彼と話す時はダヴァランも砕けた様子になるのでした。それを眺めながら、ディジベラはニコニコしています。
「相変わらず色んな宝物があるわね、ザンおじさん」
「ディジーも冒険してきたんなら、お宝ゲット出来たか?」
「そうねぇ……リエンス・ブランドのドレスでしょ、魔法のハープでしょ、金の卵から孵化させた金の卵を産むニワトリでしょ、あとは浴衣に……」
「おいおいおい! あのロング・ナリクの富豪、リエンス家のドレス! 魔法のハープ! どんな冒険してきたんだ! 楽しそうじゃんか!」
盛り上がるザンジアと、楽しそうなディジベラを見て、これは暫くかかるだろうな、とダヴァランは苦笑交じりの溜息一つ吐いたのでした。
✨🎄✨
番犬シュテルンが、再び二度吼えました。すぐに扉が開け放たれます。
「こんにちは! マスター、ディジー、いるかしら~?」
「カサブランカさん、こんにちは!」
「いらっしゃい。おや、大荷物だね」
次のお客は、農家でもあり、冒険者でもあるカサブランカです。逞しい両腕いっぱいに何かを抱えてやってきました。
「冬のお野菜のお届けよ! こーんなに大きなカブまでとれちゃったのよぉ」
「わぁ、ほんとに大きいわ!」
「いやはや助かるな。今夜は〈聖樹祭〉の前夜だから、豪勢にしようと思っていたんだ。久々に〈天駆ける狗〉のディナーは如何かな?」
「あらッ、いいの? じゃあご相伴にあずかっちゃおうかしら! 嗚呼でも、今晩はオストリッチは……」
「大丈夫、今晩のメニューには使わないとも」
ダヴァランの申し出に、カサブランカはニッコリ微笑みました。かつて、〈天駆ける狗〉亭が食料難に陥った時に、捕まえたオストリッチを泣く泣く鍋にした事があったのです。
✨🎄✨
ダヴァランが、カサブランカの持ってきてくれた野菜たちで料理の下ごしらえを始めた頃。
番犬シュテルンが、今度は一声吠えました。一回の場合は、〈天駆ける狗〉亭で暮らすダヴァランかディジベラ、あるいは初めてのお客様のときです。
「私、見て来るわね」
「嗚呼、頼んだ。もし【悪の種族】だったらきちんと私を呼ぶこと、いいね?」
「はぁい」
〈天駆ける狗〉亭は、【善の種族】も【悪の種族】も【少数種族】も、誰でもいつでも歓迎します。ただし、宿の中では喧嘩をしないこと、ディジベラを傷つけないこと、この二つを守れるのであれば、ですが。勿論、どうしても一緒に過ごせない〈吸血鬼〉と〈吸血鬼殺し〉などもおりますから、その時は上手く被らないようにします。
ディジベラが玄関から外へ出ると、そこには馬よりも二回りほど大きな〈大トカゲ〉に似た生き物がいました。〈大トカゲ〉に乗っているなら、【悪の種族】の〈トカゲ人〉かしら? とディジベラは探してみるが、見当たりません。騎乗生物のようですから、乗り手はいそうなものですが……と、その生き物をまじまじと眺めます。〈大トカゲ〉にしては、大柄な体と攻撃的な顔立ち。騎乗生物ではありますが、どことなく誇り高そうな振る舞い。
「……あなた、〈大トカゲ〉じゃないわね。もしかして、〈ドリザード〉?」
「ご名答じゃ! よく分かったのう」
〈ドリザード〉……正式名称はドラゴンリザード。〈大トカゲ〉にドラゴンの血を混ぜて作られた騎乗生物です。ドラゴンの血が混ぜられたことで、【炎】を吐くことが出来、非常にタフな生き物。それが喋った……という訳ではなく、首筋に引っ付いていた淡い虎縞のコビット並に小さな〈猫人〉が、ぴょんと身軽に降りてきました。異国風の衣装を身にまとい、肩には極彩色のオウムを留まらせています。〈猫人〉であれば【少数種族】です。父親のダヴァランを呼ばなくて良いだろう、とディジベラは声を掛けました。
「ようこそ、〈天駆ける狗〉亭へ。私は宿の娘のディジベラよ。ディジーって呼んでね」
「うむ、儂は〈淡虎縞のニャンコダガー〉じゃ。よしなに」
〈天駆ける狗〉亭の近くに住む、緋色の老魔術師アリザルフのような話し方でしたが、ニャンコダガーのヒゲはピンピンとしており、まだ若い様子でした。ディジベラを見上げて、小首を傾げます。
「ここに、異国魔法使いのネロリムニとやらがおると聞いたでな。同業故、何か足しになる事もあるやもしれぬと」
「ネロリムニは私の母よ。確かに立派な異国魔法使いの研究者だったけど、私が小さい頃に亡くなってしまったの」
ディジベラが寂しそうに微笑むと、ニャンコダガーは少し耳を下げました。
「むう、そうであったか。悪い事を聞いてすまんかったのう」
「いいえ。母の事を知ってくれる方が増えるのは嬉しいわ。それに、母の遺した研究書がまだあるのだけど、それでも良ければ見ていく?」
「おぉ、良ければ是非に」
「じゃあ、入って入って。この〈ドリザード〉は、向こうの厩舎に繋いでおくわ。ちょっと寒いかもしれないから、後で毛布を持っていくわね」
ディジベラは〈ドリザード〉に優しく話しかけると、厩舎に引き連れていき、その後ニャンコダガーを〈天駆ける狗〉亭へと案内したのでした。
ニャンコダガーは暖炉の近くでくつろいだ様子で、〈天駆ける狗〉亭を見回します。
「お待たせ。これが母の書いた解説書よ」
「ほほう、どれどれ……」
ディジベラが持ってきたのは「異国魔法解説書」。異国魔法の研究家であった、ディジベラの母ネロリムニが、異国魔法を誰でも使えるように解説したものです。とは言え、素人が軽く読んだくらいでは流石に使えません。それを習ったダヴァランも、その中の3つ程くらいしか分からないと言います。しかし、流石は異国魔法使いであるニャンコダガーですから、内容はしっかり分かったようでした。したり顔で頷きます。
「よもや、『HEN』をこのように解説するとはのう!」
「そういう風に発音するのね。どれかしら?」
「これじゃ、『雌鶏を生み出す呪文』じゃな」
「嗚呼、それね! 錬金術師でもないのに、魔術で生き物を生み出せてしまうんだから、異国魔法使いってすごいのね」
「そうじゃろうそうじゃろう」
褒められて自慢げにヒゲを撫でるニャンコダガーの元へ、ダヴァランが湯気の立ったカップを持ってやってきました。
「父さん、〈淡虎縞のニャンコダガー〉さんよ。異国魔法使いなんですって!」
「そうか、妻の同業者だね。ようこそ、〈天駆ける狗〉亭へ。マスターをやっているダヴァランと言う。これはサービスだ、宜しければ」
「ふむ。ホットミルクか。頂くとしようかのう」
ふうふう息を吹きかけ、ゆっくり飲み始めたニャンコダガーは、目をまん丸にしました。
「はて、仄かに甘いぞ?」
「うちのは蜂蜜入りなのよ!」
「〈ドリザード〉に乗って来たと聞いたよ。〈貿易都市ビストフ〉で扱っている騎乗生物だ。ここまで来るのに長かっただろうから、疲れているかと思ってね。普段より一匙多めに」
「気遣い痛み入るのじゃ」
ニャンコダガーは気に入ったのか、ペロリと舌で口回りを舐めると、再びゆっくりホットミルクを飲み始めたのでした。
✨🎄✨
シュテルンが二度吼えたあと、少しだけ時間を置いてもう一度吼えました。という事は。
「来た事がある人が一人、初めましてが一人、かしら?」
「今日は来客が多いね。ディジベラ、頼めるかい。この分だともう少し料理の準備をしておいた方が良さそうだ」
「えぇ、大丈夫。宿が賑やかになるのはいい事だわ!」
ディジベラが玄関を出ると、強面で髭を蓄えた男性と色白の娘と、そして小柄なゴブリンが立っていました。シュテルンに歓迎されたように尾を振られている強面の男性の方は、一度だけディジベラも見かけた事があります。
「えっと、ミダスさん、よね? ようこそ、〈天駆ける狗〉亭へ」
「……よく覚えているな。この犬も」
ミダスと呼ばれた男は、少しだけ驚いたようでした。一度来た時、彼は宿に泊まった訳ではなく、ダヴァランに話を聞きにきていたので、すぐに立ち去ったのです。
「お褒めに預かり恐縮だわ。それと……貴女と貴方は初めましてよね。私はディジベラ、この宿の娘よ。ディジーって呼んでね」
「あ……初めまして、ディジーさん。私はセレーナと言います」
「ググはググと言います! セレーナ様のしもべです!」
ミダスの後ろに隠れていた娘、更にその娘に隠れていたゴブリンに挨拶すると、赤い瞳の娘はぺこりと頭を下げ、ゴブリンは胸を張って答えました。しもべ? 従者の事かしら、とディジベラは思いつつ、セレーナに駆け寄ります。
「顔色が悪そうだけど、具合が良くない? 大丈夫そう?」
「嗚呼、ええとこれは……」
「問題ないから気にするな。……ところで、看板娘。今夜の客に【闇の住人】はいるか」
良い淀んだセレーナを遮り、ミダスがそっとディジベラに囁くように告げたのは、〈天駆ける狗〉亭で定めた合言葉の一つでした。【闇の住人】とされるのは、【悪の種族】、〈吸血鬼〉、〈バルサムデビル〉、〈死せる砂漠の道化師〉、〈末裔〉などです。今日来てくれたザンジア、カサブランカ、ニャンコダガー……どのお客も当てはまりません。ディジベラは首を横に振りました。
「いないわ。予約も聞いてないから、飛び込み以外は」
「そうか。では、一人部屋を二つ、従者用のベッドを一つ借りたい。暫くはここを常宿にして動きたいんだが」
「長期利用は助かるわ! さ、まずは入って。話は中でしましょう」
「お世話になります」
「ググはセレーナ様と一緒がいいです」
「別だ」
「けち! ミダスのけち!」
「むしろお前用の宿泊費を払うんだが?」
ググは、娘のセレーナには様付けで、ミダスは呼び捨てです。一体どういう関係性なのか、不思議な一行だなと思いつつ、お客を詮索し過ぎるのは宿の経営者としてはあまり良くないので、ディジベラはいずれタイミングが合った時に聞く事にしました。こうして、『暗殺者』ミダスと『吸血鬼殺し』セレーナも、〈天駆ける狗〉亭へとやってきたのでした。
✨🎄✨
冬は日が傾くのも早く、辺りが暗くなり始めた頃。
シュテルンが一度吼えました。
「ディジー、外はもう暗い。お皿の準備をしておいてくれ」
「分かったわ。父さんも気を付けて」
シュテルンが敵とみなした場合は、鋭く三回吼えるのですが、今回はそうではありません。恐らく宿を求めた初見の客とは思われましたが、念の為、今度はダヴァランが応対する事にしました。素早くコートを着込み、手袋とマフラーをし、寒さ対策を入念にしてから、ランタン片手に外へと出ます。
「(寒い……)おや、君は」
夜陰に紛れるように、夜闇を溶かしたような漆黒の立派な軍馬と、右目を隠すように前髪が長い黒髪の青年が佇んでいました。鋭い三白眼でダヴァランを真っすぐ見据えます。
「ダヴァラン殿とお見受けする。……僕は」
「ノックス・オ・リエンス殿だね。ブラークからよく聞いているよ。良く出来た息子だとね」
「とう……父が」
敬愛してやまない父の名を出されて、ノックスの雰囲気がほんの少しだけ和らぎました。それも一瞬だけで、すぐに軽く頭を下げます。
「かつて父が世話になったと。それと以前は娘さんに挨拶に来て頂きましたので、此度は僕が」
見ると、軍馬の背には荷物が山と積まれています。殆どが贈り物の類でしょう。リエンス家の律儀さと気前の良さに笑みを浮かべながら、ダヴァランはドアを指し示しました。
「そうか。遠路はるばるありがとう。そしてようこそ、〈天駆ける狗〉亭へ」
「いえ、こちらを届けるだけの用でした。僕はこれで」
「もう帰るのかい? 今から〈ロング・ナリク〉へ行くのは少々強行軍だと思うが」
「流石に戻るであれば〈グリフフォン〉を共にしたでしょう」
自分でも出来るが? というように軍馬が不満そうに鼻を鳴らしました。その首をぽんぽんとなだめるようにノックスが撫でます。
と、いう事は、何か他に用事があるのでしょう。本来ならノックスは〈ロング・ナリク〉のコーデリア王女直属の近衛騎士です。彼は腕を見込まれて、単独任務に出る事もあると聞きました。彼がこの辺りで調べるともなれば。
「〈飢え知らずの町〉にでも行くのかい?」
ぴくり、とノックスが動きを止めました。何故、と鋭い眼差しが問います。
「私にも色々情報網があってね。聞いてからでも悪くはないとは思うよ。それに、もうすぐディナーも出来る。君の口に合うかは分からないが……」
「……それでは、食事だけ」
「改めていらっしゃい、ノックス君。君の愛馬と荷物は私が預かっておくよ。ディジベラに案内させよう」
ダヴァランは柔らかく笑うと、宿内のディジベラを呼んだのでした。
かくして、〈天駆ける狗〉亭には沢山のお客がやってきたのです。
✨🎄✨
ノックスが持ってきた贈り物の中には、服飾産業で財を成したリエンス家らしく、見事な刺繍の施された厚手のマントや、可愛らしい花模様に編まれた毛糸の手袋、他にはシミ一つ無く真っ白に輝くような、手触りの良いシーツ用の布地などでした。
「こっちのマントはきっと寒がりな父さん用ね。こっちの手袋は私用かしら。シーツも助かるわ! ブラーク様に宜しく伝えて頂戴ね」
「分かった」
ディジベラが笑顔で礼を告げると、ノックスは一つ頷きました。言葉少ない相手にも慣れたものなので、ディジベラは気にせず……シーツを手に取ると、あ、と声を上げました。
「何だ」
「これなんだけど……ちょっと違う使い方、してもいいかしら?」
「父は好きに使って欲しいと言っていた。構わないのではないか。勿論、我がリエンス家の最高級の布地を雑に扱うのは、僕は許しはしないが……」
「大事な用事に使わせてもらうから安心して。ちょっと父さんに相談してくるわね」
ディジベラはすぐさまダヴァランに思いつきを話に行きました。ダヴァランは少しだけ悩みましたが、苦笑しながら頷きました。
「何々? ザンジア様を差し置いて、何か企み事かい?」
「丁度良かった、ザンおじさんも手伝って! あとちょっと『お宝コレクション』を借りたいわ」
「あら、手伝いが必要ならアタシもいるわよ~」
「人手と背が高い人がいるのは助かるわ、ありがとうカサブランカさん」
ザンジアがニマニマと悪戯でも企む子どものような顔でディジベラに話しかけてきます。世話好きのカサブランカも声を掛けてきました。
「私たちも何か出来ますか?」
「……おい、俺も含めるのか」
「ググもセレーナ様とお手伝いします!」
お人好しのセレーナもそっと声を掛けてきます。ミダスは乗り気ではないですが、ググは妙にやる気です。彼と同じくらいの背丈のニャンコダガーは、暇そうに欠伸をしました。
「背が高い……で、あれば儂はお役御免じゃの」
「あ、ニャンコダガーさんにはちょっと他にお願いしたい事があるの」
「儂はタダ働きはせんぞ。魔法の品でも寄こさんか」
「魔法の品なら売る程持ってるぞ、コイツが」
ダヴァランがザンジアを指さします。「いやアレは俺の『お宝コレクション』なんだけど」などとザンジアが言いかけましたが、
「何と! それを早く言わんか!」
興味無さそうだったニャンコダガーが目を輝かせてやる気になったものですから、口を噤みました。空気は読める男なのです。
「あともう一人くらい背が高い人……」
宿内の面々の視線が、ノックスに集まります。手足がすらりとしており、細身には見えますが、彼もかなりの高身長でした。仮面のような顔はそのままに、ノックスは小さく溜息を吐いて言いました。
「僕は何をすればいい」
✨🎄✨
「ウルーソ牧師に頼んでも良かったんだけど、明日の〈聖樹祭〉の準備でお忙しいと思うから……皆、ありがとう!」
ディジベラの思いつきに付き合う事になった宿泊客の一行は、エンベニーの村の広場へとやってきていました。飾り付けのほぼ終わった聖樹ですが、一つ、白布だけが無かったのです。
「このシーツを、聖樹のベール代わりにしたいの。で、ニャンコダガーさんは【LIT】で暫く周りを明るくして欲しいの。ミダスさんは『魔法の大盾』を持ってもらって、反対側も照らしてくれると助かるわ」
「簡単に言うお嬢ちゃんじゃの~」
「……承知した」
そう言いつつ、ニャンコダガーが【LIT】を唱えます。すると雷の玉がバチバチと弾けながら、宙に浮かびました。ミダスが『魔法の大盾』を掲げると、反射して更に辺りを明るく照らします。
「松明だと燃える可能性もあるからね。じゃあ、のっぽグループは白布を宜しくね!」
のっぽグループと呼ばれたダヴァラン、ザンジア、カサブランカ、ノックスは、せーの、という掛け声と共にシーツを聖樹に掛けました。元はシーツなものの、リエンス家の高級な布地のお陰で全く遜色ありません。
「あとは仕上げ!」
金の卵の殻を使った飾りを、ディジベラとセレーナ、ググがメインになって白布代わりのシーツに縫い付けていきます。こうして、皆の協力で、聖樹の飾りつけが完成したのでした。
「ふふ、明日になったら、村の人たちきっと驚くわ。一晩経ったら聖樹が完璧な姿になってるんだもの!」
「さ、終わったなら早く帰ろう。皆も体が冷え切る前に……雪も降ってきたぞ!」
ダヴァランが震えながら、一足先に宿へと向かいました。一行も彼に続きます。ディジベラは、暫く月の下で佇む聖樹を見上げていました。
「……行かないのか」
「ん、ちょっとね。聖樹にお願いごと」
ノックスだけがディジベラの背後に静かに立っていました。
「私の冒険はね、リエンス家へのご挨拶に行った時から始まったのよ。もうすぐ一年くらい経つかしら」
「そうだな」
「まさかあの時は自分が死にかけちゃうとは思わなかった。その時の同行者のレニアスさんも、父さんも沢山心配させちゃったわ。その後、ドミニアさんと豆の木に登って……ソリダオさんを喪って。皆で夏の家を手伝いに行ったり、スノウさんとリエンス家の夏祭りに参加したり、リューくんとチャマイを救ったり……思い返すと色々あったなって」
「……そうか」
「体が痛い事も、心が痛い事も沢山あったけど……それ以上に楽しい事がいっぱいだった。私はやっぱり冒険が好き。来年はもっと色んな冒険をしたいし、皆が無事でありますように、また〈天駆ける狗〉亭に来てくれますようにって、お願いしたのよ」
「そうか」
「勿論、貴方もね、サー・ノックス! じゃあ、行きましょ。父さんの料理は美味しいのよ!」
ディジベラがノックスの手を引き、〈天駆ける狗〉亭に向かって歩き始めます。一人でも歩ける、とノックスは思いましたが、彼女の手を振り払う事はしなかったのでした。
そんな二人を、飾り付けられた聖樹が見守っていたのでした。
✨🎄✨
「今夜のメニューは……まずはカサブランカの大きなカブを使ったポタージュだ」
ほかほかと湯気の立つ、白いポタージュがスープ皿になみなみと盛られています。皮まで丸ごと使い、よく煮込んで丁寧に濾された滑らかなポタージュを口にして、カサブランカは歓声を上げました。
「あら~! 甘くってほっとする味! 美味しいわぁ」
「こっちはポロポロ鳥のロースト!」
「おぉ~! 〈聖樹祭〉前のディナーって感じ! いいねぇ」
ザンジアが、スパイスの入ったホットワインを楽しみつつ、ヒューっと口笛を吹きました。前日から入念に下ごしらえをしたメイン料理は、ポロポロ鳥と呼ばれるアヒルに近い鳥の丸焼きです。中の詰め物には、スノウスノウたちヴァイスエーバー家が送ってくれたメーラの実などを使っています。ダヴァランが切り分けて、ディジベラが配ります。皮はパリッと、肉はジューシーで、添えられたクランベリーソースの酸味と甘味と調和して、よく合うのでした。
他にも魚料理やサラダ、パンなどが並び、皆が思い思いに好きなものを食べ、美味しいと笑っています。ノックスだけがナイフとフォークを綺麗に使ってもくもくと食べ進めておりましたが。
(カブのポタージュよ……おぉ、この白く暖かく柔らかで滑らかなシルクのような海に身を委ねたい……冷えた身に、何と心地好く染み渡るのか……僕がまた生まれ変わった際はどうか母よ、このカブのポタージュのような産着で包んで欲しい……。そしてポロポロ鳥のロースト。噛み締める程に美味い……肉に野趣を少し感じるが、それはパリパリに焼かれた小気味よい皮に刷り込まれたふんだんに使われたハーブ類と、クランベリーソースによって、むしろ更なる高みへと導かれる……美味さにポロポロと涙が出そうだ……いや泣くまい、泣いてはこの鳥に申し訳が立たない)
「ノックスさん、ポタージュのお代わりは?」
「いる」
「ふふ、分かったわ」
心の中では、賛辞が繰り広げられていたのでした。
✨🎄✨
食事を終えて、皆が眠りにつく前に、ザンジアがニカっと笑って皆を引き止めました。
「この善き夜にお集まり頂いた皆の衆、『お宝ハンター』ザンジア様から、プレゼントだぜ!」
カサブランカには『魅惑の香水』を。
ニャンコダガーには『援軍の角笛』を。
ノックスには『鷲の仮面』を。
セレーナとミダスには『憤怒の鉄槌』と『魔法の大盾』を。
「『魅惑の香水』はトーンで手に入れた。これはいい香りがするからな、【交渉】の際には良い働きをしてくれるぜ」
「あらまぁ! いい香りだわ、ありがとうね」
「『援軍の角笛』は、ドラッツェンで入手したな。吹けば音を聞きつけて仲間がやってくる。一人で旅してる奴には助かる代物だ」
「ふーむ、まぁ良かろう。貰っておくのじゃ」
カサブランカには香水瓶を、ニャンコダガーには角笛を、説明しながら渡すザンジアは、次に鷲の目元を模した仮面を取り出しました。
「カラメールで手に入れた『鷲の仮面』は……」
「いらん」
「まぁそう言うなって兄ちゃん。……あんた、正体隠さなきゃいけない時もあるだろ?」
「……」
「護身用に取っとけ、な!」
半ば押し付けられる形で、ノックスは仮面を手に取りました。ダヴァランにしろ、このザンジアという男にしろ、妙によくノックスの事情を知っています。年の功というやつでしょうか。
「これは、ゴーブと、聖フランチェスコ近くでゲットしたんだったかな。あんたらに必要そうだから譲ってやるよ」
「あ、ありがとうございます。怖そうな名前ですけど……」
「鉄槌の方は俺には使えんようだ。……『憤怒』、か」
「ググには!?」
「ごめーん、これしか無いわ」
ザンジアが舌をぺろっと出しながら、取り出したのは元『暖炉石』だった石ころです。ググはそれを両手で受け取ると、ぎゅっと握りしめました。
「石! ググには石!!」
「ごめんって、でもそれほんとはポッカポカだったんだって!」
「……ポカポカ石になった」
「嘘ぉ?」
ググにはどうやら、魔術の才能があったようでした。『暖炉石』はググの魔力によって、ほんのりと温かくなっています。
「お前の肌の温度じゃないのか」
「違う! セレーナ様にあげます、ポカポカです」
「ありがとう、ググさん。ほんと、温かい。……私、こんなに温くて楽しい夜を迎えた事はありませんでした。ここに来れて良かった」
セレーナがふわりと笑う。その言葉に、ディジベラとダヴァランも微笑んだ。
✨🎄✨
こうして、〈天駆ける狗〉亭の、〈聖樹祭〉前夜は更けていったのでした。
あくる朝、聖樹にベールがかかっている! 奇跡です! と普段は冷静なウルーソ牧師が〈天駆ける狗〉亭に駆け込んできて、皆で笑ったのであった。
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と、いう訳で、めでたしめでたし!
〈天駆ける狗〉亭の日常回的なお話をお送り致しました。いかがだったでしょうか。
折角なので、うちよそ交流企画にご参加頂いた皆様もがっつりお借りしてしまいました。てへ。ご参加頂いた皆様へのお礼とプレゼントも兼ねまして。
作中に出て来る装備品は、それぞれ出典シナリオを以下に添えておきます。フレーバーとしてお渡ししてますが、各主人公さんには実際に使って頂いちゃってもOKにしちゃいます。効果はどうぞ書籍等でご覧ください(リンクは各BOOTHページに繋げてあります)。
サンタクロースならぬザンジアクロースという事で!
(セレーナちゃんとミダスおじさんが貰った『魔法の大盾』と『憤怒の鉄槌』は、邪魔なので置いてく事になりそうです(笑))
・魔法の大盾……『黄昏の騎士』 魔法の宝物
・憤怒の鉄槌……『混沌迷宮の試練』 魔法の宝物
・鷲の仮面……『巨大樹の迷宮』 魔法の宝物
・援軍の角笛……『女王の肉』 魔法の宝物
・魅惑の香水……『四猫亭の幽霊』 魔法の宝物
・屠殺剣……『廃城の秘宝』 魔法の宝物
・暖炉石……『雪剣の頂 勇者の轍』 収録『吹雪の慟哭 氷獄の囚人』魔法の宝物
(現在最新シナリオ書籍 エメラルド海の探索 のお宝は持ってきてませんので、是非どんなものがあるかはあなたの目で確かめてみてください!魔法の宝物はいいぞ!)
ディジベラちゃんが聖樹の前で一年を振り返っておりますが、ディジベラちゃんにも、PLである私自身にも色んな冒険がありました。
ディジベラちゃんとマスターが生まれ、〈天狗亭〉が出来て、ローグライクハーフのリプレイ書き始めたりシナリオ作ったり、シナリオ本作ったりWEBイベント参加したり、オフイベントのGM兼スタッフやったり……ローグライクハーフのお陰でやる気と行動範囲がモリモリ広がった一年でした。いやはや凄いぜローグライクハーフ。
今年の終わりに(恐らく)リプレイ本も出すので、来年はまたシナリオ本とリプレイ本を1つくらいずつ作りたいものですね。でもってオフイベサークル参加! が目標ですが、はてさてそれはどうなる事やら。
今年はFT書房さんの皆様を筆頭に、色んな方にお世話になりました!
クソデカボイスなゴブリンの突撃兵みたいな私と仲良くして下さる皆様、これを読んで下さったあなたに感謝と敬意を込めつつ、来年もどうか宜しくお願い致します~!
来年も、皆様と皆様の主人公たちに、良き冒険のあらんことを。
それでは最後に一言。
ローグライクハーフはいいぞ!!!!!!!!!!
来年もいっぱいローグライクハーフ楽しむぞ!!!
ローグライクハーフ仲間を増やすぞ!!!!!!!
一言じゃないですが以上!
てんぐじゃないよ、あまくだよ。天狗ろむがお送りしました!
メリークリスマス!




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