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四猫亭の幽霊:11話目~魔猫、一騎打ちする

更新日:6月13日

 

 前回のあらすじ

 

 辻斬りと遭遇し、軽傷を負った〈ユッサ〉さんに動揺するフィーダさま。

 〈ユッサ〉さんはというとケロっとしていて、流石は元冒険者といったところでした。

 さて今回は最終前イベント、続いて最終イベントまで駆け抜けます!




◇できごと8 最終前イベント 没落貴族モンティ  


 

◆◆◆◆+◆


 何とも情けない二つ名をつけられてしまっている貴族の屋敷へ向かう。とは言え、そのお陰で御しやすくもあるのだから、笑わずにおいてやろう、とフィーダは思う。ヒトの世界は色々必要なのだ、地位、金、しがらみ、運などが。それを上手く手に入れられない者だって沢山いるのだろう。
 大きな門も錆びついていて、物悲しい。誰もいないのですんなり入ることが出来た。本来なら立派であっただろう庭園は、雑草が生い茂り、低木の枝葉は不揃いに伸び放題、柵などにはツタが這い廻っている。今や見る影もなかった。庭師や門番なども解雇せざるを得ない程、金に困っているようだ。
 〈ユッサ〉がノッカーを鳴らすと、モンティ本人がドアを開ける。〈四猫亭〉の者だと名乗れば、入れ、と力なく案内された。明かりの乏しい屋敷の中を進み、客間と思しき広間へ辿り着く。売り払ってしまったのか、調度品が殆どない上に、暖炉などは埃をかぶっていた。
 〈ユッサ〉はそれらを一瞥しつつ、〈四猫亭〉からの届け物だ、と袋を机にドサリと置く。ジャラリ、と零れた金貨を見て、モンティは息を呑む。
「はい、金貨100枚ぴったり。必要でしょう?」
「あ、嗚呼……援助という事か、殊勝だな」
「いいえ? これは取引ですわよ、モンティ様」
 震える手を伸ばしてきた彼から、袋をさっと奪う。挑発的に、魅惑的に微笑む〈ユッサ〉を見て、歯噛みしながらモンティは項垂れた。
「分かった、みなまで言うな。うらぶれたといえども〈四猫亭〉の思惑くらい分かる。……〈四猫亭〉に1票、くれてやるさ」
「では、これはモンティ様のものですわ」
 〈ユッサ〉はニッコリ笑って、袋をまた机の上に置いた。素早い動きで、モンティが袋をひったくり、中の金貨を数え始める。
「ありがとうございます。ですが、モンティ様。万が一〈黒犬亭〉も『届け物』をしてきて、先程の言葉を翻すような事あれば……」
「……ナーオ」
「ひ、ヒィ……猫!」
 油の差されていない軋む扉をギイ、と開けて、フィーダは滑り込む。殆ど暗がりに沈む部屋の中へと歩を進めながら、目を満月のように輝かせて、舌なめずりしてみせる。モンティは恐れおののいて、袋を取り落とした。ジャラジャラと硬質な音が響く。
 ……モンティは獣人だ。ネズミ人の血を引いているのだ。
「分かった、『犬』は追い払うから! 猫は怖い、猫は怖い……!」
「ご理解が早くて助かります。では、ごきげんよう」
 部屋の隅まで言ってガタガタと震えるモンティを置いて、〈ユッサ〉とフィーダは屋敷を後にした。
「……あー! 楽しかった。でも〈ウッタ〉の真似は疲れるわ」
『〈ウッタ〉はもっと上品でしてよ。貴女は悪そうな顔でしたわ』
「やだぁ、それを言うならフィーダの方が怖かったわよ」
 言い合いしつつも最後には二人でくすくすと笑い合ってしまう。怖がらせ過ぎたかと気の毒な気もしないでもないが、金貨100枚という大金を積んだのである。これくらいの意趣返しは許されたいところだ。
「これで4票! 〈四猫亭〉は安泰ね!」
『油断はいけませんわ。犬どもが何もしないなんて事、あり得ないですもの』
「確かにそうね。お次はどこにする?」
『モンティに続いて、分かりやすい人にしましょう。あんまり気乗りはしないのだけれど』
 憂鬱そうに鼻を鳴らしたフィーダに、嗚呼……と〈ユッサ〉も少し沈んだ相槌を打った。

◆◆◆◆+◆


 モンティさま、特に何の獣人とも書いてなかった様子だったので、ネズミ人の血を引いている小男な雰囲気にしちゃいました。色んなタイプの獣人モンティさまがいて良いと思います!(?)

 さて、少々げんなりしながらなフィーダさまが向かった最終イベントは……?



◇できごと9 最終イベント 鋼のアイゼル  



 モンティの屋敷を後にした二人は、元闘技場のチャンピオン、鋼のアイゼルの屋敷を訪れた。こちらの屋敷には門番代わりに、彼の部下が5人程おり、無論阻まれる。
「止まれ、何用だ!」
「アイゼル殿と『お話』がしたくって」
『通して頂ける?』
「アイゼル様は弱者とはお会いにならぬ。我々を倒せる力を見せよ」
『……言葉の通じなさ、聞く耳のもたなさは犬どもと変わりませんわね』
「まぁまぁ。……分かりやすい方が楽な時もあるってものよ!」
 これだから脳まで筋肉で出来ているような輩は嫌なのだ。嫌そうに首を振るフィーダの隣で、〈ユッサ〉は愉快そうにメイスを構えた

◆◆◆◆+◆


 戦闘だーッ!

 まずは5人の鋼のアイゼルさんの部下を倒さねばなりません。できごと次第ではショートカット出来るのですが、拳で語り合うとしましょう!


◆0ラウンド  

 〈ユッサ〉 【防衛】を自分にかける 幸運点4⇒3


◆1ラウンド  

 フィーダ 攻撃 成功

 〈ユッサ〉攻撃 成功 部下5人→3人 

 フィーダ 防御1回 成功

 〈ユッサ〉 防御2回 成功2回 


◆2ラウンド 

 フィーダ 攻撃 成功

 〈ユッサ〉攻撃 クリティカル!⇒成功 部下3人→全員ダウン!




◆◆◆◆+◆


 自らを抱きしめるように【防衛】の奇跡をかけた〈ユッサ〉が、その後に軽いステッキでも振り回すかのように、メイスをブンブンと振るう。音はドゴォ! だとかゴヅン! と一切軽やかではないけれど。【防衛】というより【迎撃】だったのではないかとも思われるほど暴れ回ったお陰で、アイゼルの部下たちは全員倒れてしまった。
 これではアイゼルを呼ぶ人間がいないではないか。
 フィーダが〈ユッサ〉を軽く睨みつけようとした時である。
 ゆっくりとした拍手の音が響く。手を叩きながら現れたのは、右目を覆う鋼の半仮面をつけた大男。名乗られずとも分かる威圧感。鋼のアイゼルその人だろう。部下がやられたというのに、妙に嬉しそうに笑っている。
「いやはや見事だな。そいつらもまぁまぁ腕が立つ奴らなんだが。評議長をボコボコにしたその腕は伊達じゃないって事か」
「あら、流石に耳に届いていますのね」
「嗚呼。聞いた時にゃ、笑った笑った。でっかい猫に引っかかれたってな。その場にいたかったと強く思ったね。戦いは見るのも好きなんでな」
 ニヤリと好戦的な笑みを見せると、アイゼルは慣れた様子で剣を抜いた。
「だが、自分で戦う方が一層好きだ。……一騎打ちをしようじゃないか。ドーレンを倒したその力、見せてくれ!」
 フィーダは目を眇めながら一歩前へ出る。そこに、〈ユッサ〉がそっと駆け寄った。
「ご武運がありますように。負けないでね、フィーダ」
 〈ユッサ〉が触れた手のひらから、温かな力が伝わった。【防衛】の魔術がフィーダをそっと包み込む。彼女の包容力によく似て、少し甘い香りがした。
『負けないわ。わたくしは銀月のフィーダ。鋼など、切り裂いてみせる』
「いいねぇいいねぇ。さぁ、どこからでもかかってきな、銀月の!」
 アイゼルは鷹揚に構えている。ならば、遠慮はむしろ失礼ですわね、とフィーダは身を低くした。

◆◆◆◆+◆


 連戦だーッ!しかも一騎打ちだーッ!

 負けるなフィーダさま!がんばれフィーダさま!



◆1ラウンド  

 フィーダ 【目も当てられぬ激怒】 成功(クリティカル扱い)⇒失敗 器用点2⇒1点

 アイゼル 生命点7⇒6

 フィーダ 防御 成功


◆2ラウンド 

 フィーダ 【目も当てられぬ激怒】 成功(クリティカル扱い)⇒成功 器用点1⇒0点

 アイゼル 生命点6⇒4点

 フィーダ 防御 成功


◆3ラウンド 

 フィーダ 攻撃 成功

 アイゼル 生命点4⇒3点

 半分以下になったので戦闘終了


 よし勝てました!

 【防衛】のお陰もありますが、ノーダメージなのもえらい!!



◆◆◆◆+◆



 フィーダが『銀月』と呼ばれるのは、月に照らされると綺麗な灰色の毛並みが銀色に見えるからであり、戦いの際に縦横無尽に駆ける様、くるりと回転ジャンプで避ける様が、弧を描く月のように見えるからだ。
「銀月の! 愉しいなぁ! 違うか!」
『わたくし、戦いはあまり好みませんの!』
 戦好きの獣のような貴方と一緒にしないで!
 怒りを込めて爪を振るい、アイゼルの攻撃を躱し、フィーダはアイゼルを追い詰めていく。金属鎧ごと切り裂くような斬撃が続き、アイゼルはとうとう膝をついた。
「嗚呼、降参だ! 久々の負けを味わった。悔しいなぁ」
『貴方本気じゃないでしょうに。それでも嬉しそうですわ。……本当に解せない』
「お前さんも愉しげに見えたがなぁ、銀月の。私と同じ匂いがするぞ?」
『目も鼻も鋼で出来ていますの?』
 顔を顰めるフィーダに、アイゼルはガハハと豪快に笑う。何だか気に入られてしまった気配がして、フィーダの髭がピリリとする。この手の豪放磊落な相手は、本当に此方の話を聞かないのだ。
 フィーダの元へと駆け寄って来た〈ユッサ〉が、アイゼルの前へと進み出る。
「アイゼル殿。負けを認めて頂けたからには」
「嗚呼、分かってるさ。〈四猫亭〉に1票を入れよう。もう1票入れれば、再戦してくれるか?」
『貴方は1票分しか持っていないでしょうに。それでもお断りですわ。もう既に充分な票は得ておりますもの』
 ツンとそっぽを向くフィーダに、アイゼルは大仰に天を仰ぐと嘆いてみせた。
「つれないな、銀色の女神様は。老い先短い人間の願いも叶えて下さらぬ」
『貴方みたいな人はそう言いながら百年くらいは図太く生き延びますわよ。……でも、そうですわね、その傷が癒えたら一度くらいは。〈四猫亭〉で模擬戦でもすれば、賑わうかしら』
 女神と呼ばれて少し気分を良くしたフィーダ。この方法ならいけるな、とニヤリと鋼の仮面の奥で笑うアイゼル。闘技場のチャンピオンは不屈の男、ただでは転ばぬ男である。そんなやりとりを眺めて、〈ユッサ〉は思わず声を上げて笑ってしまった。
「あはは、フィーダって本当に可愛い!」
『可愛いは当然ですわ。それでもって美しくて気高いのよ』
「そうね、ふふ、本当に。模擬戦の話は〈ウッタ〉にしておくわ。店が壊れないようにすれば、やってくれるかも」
「頼んだぞ、お嬢さん! 私も腕を磨いて待っているからな!」
 負けたのに上機嫌なアイゼルの元を去る。上手くいったのだが、フィーダとしてはどうにも疲れた。攻撃は一切受けていない筈なのだが……あの聞く耳持たぬ男に気力が吸い取られたのかもしれない。
『……ねぇ、〈ユッサ〉。模擬戦の話、無かった事には』
「流石に評議員のアイゼル殿を騙すような真似は出来ないわな~。最終的な判断は〈ウッタ〉がするけど……闘技場の元チャンピオンの戦う姿がまた見れるとなれば、ファンは喜ぶでしょうねぇ」
 そして〈四猫亭〉も賑わって儲かる、と。そうであるなら、拒否権は無いかもしれない。
『嗚呼~! わたくしったら甘言に乗せられてなんて野蛮な提案を!』
「その時はまた『武運』を祈ってあげるわ、頑張って~」
 嘆くフィーダと対照的に〈ユッサ〉はころころと笑いながら、二人一緒に帰路につく。
 〈ユッサ〉は思った。冒険はやっぱり楽しい、こうでなくっちゃ!


◆◆◆◆+◆



 と、いう訳で2回目の冒険も無事にクリアです!👏

 アイゼル殿、挿絵がはちゃめちゃ好きな雰囲気のおじさまだったので、筆が捗りました本当にありがとうございました。

 アイゼル殿みたいなタイプと一緒にいるフィーダさま、本猫はめちゃくちゃ嫌そうなんですが、書いてるこちらはとても楽しく…応酬の台詞がポンポン出てくること!☺️

(アイゼル殿の二人称が分からなかったので自由にやってますが、「銀月の」呼びが良いなととても思ってます)

 〈愛らしきメルルーサ〉さんの演奏会に続き、〈鋼のアイゼル〉殿との模擬戦も行うことになりそうな〈四猫亭〉、ビッグイベント目白押しですね。こりゃ〈四猫亭〉を推すしかない!

 3回目の冒険はまた相棒を変えまして、最後のダメ押しとばかりに票集めをしていきます。

 5月中には終わらなかったフィーダさまの冒険譚、もう暫しお付き合い頂ければ幸いです!


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