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四猫亭の幽霊:3話目~魔猫、企みを看破する

 

 前回のあらすじ

 

 〈四猫亭〉に現れるようになった「幽霊」を退治し、見事『幽霊』の座を守ったフィーダさま。その幽霊が落とした宝石を、お店に売り飛ばしたお金で〈ウッタ〉さんに本を買いました。そこには何と、重要な手がかりになるメモが。

 策を思いついたらしい〈ウッタ〉さんと共に、〈四猫亭〉へと戻ります。

 



◇できごと4 中間イベント パーティに忍び込む毒  



◆◆◆◆+◆


〈ウッタ〉は他の〈猫〉たちも集めて作戦会議を開いた。
「パーティーを開きましょう。腕利きの料理人も雇って、大盤振る舞いの」
「それに評議会のメンバーを招くの?」
 〈ウッタ〉の提案に、〈ユッサ〉が小首を傾げる。胃袋を掴んで、ついでに票も掴もうという事だろうか。
「いや、あからさま過ぎて招いても来ないだろうね」
「……ならば、何故」
 〈メイシア〉が微笑を湛えながら否定する。〈カゲガクレ〉が短く鋭く問いかけると、〈ウッタ〉は少しだけ声を潜めた。
「〈ゴールドアクス卿〉。彼の部下たちは宴会好きよ。卿は来なくとも、彼らは来るでしょう。〈黒犬亭〉でも近々やるらしいから、その日を狙うの」
『敢えて、という訳ですわね? その部下たちを犬どもより丁寧にもてなして、〈四猫亭〉の信者にしますの?』
 四匹の〈猫〉の相談を聞いていた、5匹目の〈猫〉でもあり〈幽霊〉でもあるフィーダが、毛づくろいをしながら思いつきを口にする。〈ウッタ〉が笑ったから、大体合っているのだろう。
「当たらずとも遠からず、ね。部下たちの好みは把握できたから、上等なものを用意する。パーティーを大々的に宣伝すれば、〈黒犬亭〉が動く筈。ここまで色んな嫌がらせをしてきた事だし、この機を逃す訳がないわ」
「あー、なるほど! その悪者を上手く撃退して、恩を売るって事ね!」
「有体に言えばそうなるだろう。だが、そう簡単にいくかな」
 ぽん、と手を打つ〈ユッサ〉の隣で、懐疑的な〈メイシア〉は綺麗な指を顎に当てた。
「彼は評議長に逆らうまでもないから、〈黒犬亭〉に入れようとしているだけ。所謂、浮動票に近い存在ね」
 内情に詳しい〈ウッタ〉がそういうのであれば、と〈カゲガクレ〉は納得して静かに頷いた。確信を持った瞳で、〈ウッタ〉は続ける。
「部下思いの人物だとも聞いているわ」
『なら、パーティーを開いてドワーフたちを誘い、〈黒犬亭〉とやらの輩が悪さをする前に見つけ出し、恩人だと思わせれば良い訳ですわね』
 フィーダが話をまとめると、〈ウッタ〉も頷く。
「えぇ。私とフィーダが主に対処に当たるつもり。だけど、目の届かない場合もある。〈メイシア〉と〈カゲガクレ〉はパフォーマンスをしながら、〈ユッサ〉は配膳をしながらになって大変だろうけど、念の為の気配りを宜しく頼むわ」
 方針は決まった。五匹の〈猫〉は頷き合うと、作戦を開始したのだった。


◆◆◆◆+◆


 パーティの夜、当日。
〈四猫亭〉はいつにも増して盛況だった。賑やかな声、笑い声が絶えない、明るい宿屋の酒場スペースに、ドカドカとドワーフの一団が入ってくる。既にどこかでお酒を飲んだのか、赤ら顔の彼らは陽気に気前よく酒と料理を注文し、〈メイシア〉のリュートと〈カゲガクレ〉の歌と踊りに拍手を送っていた。〈ウッタ〉が片目を小さく瞑って、〈猫〉たちに合図を送る。
(……彼らが、〈ゴールドアクス卿〉の部下たちですわね)
 〈ウッタ〉の目配せに、〈ユッサ〉と〈カゲガクレ〉は小さく頷く。〈カゲガクレ〉があらかじめ決めておいたステップを踏むと、目隠しをしている〈メイシア〉も頷いた。そして、影に潜むフィーダも。
 フィーダは〈幽霊〉であるので、宿の片隅に置かれた酒樽の影に身を潜めている。まだ〈黒犬亭〉に存在をバラすのは早い。樽の隙間から宿内を観察して、怪しい動きをしている人物を探す。目の良い彼女には造作もないことだ。

 ……見つけた。
 料理と酒を頼んではいるが、殆ど手を付けていない。周りを窺うように、視線を走らせている男。その手に小瓶が握られており、それを忙しなく弄んでいる。フィーダに一部始終を見つめられているとも知らないで、周りに人がいない事を見計らってから小瓶の中身を酒の中に入れ、そのグラスを持ってドワーフの一団に近づいていく。……やはり、毒か。
「……やぁ、ドワーフの友人たちよ。良い夜だな」
「おぉ、そうだな! 酒も美味けりゃ、料理も美味い。音楽も歌もある。最高の夜さ!」
「本当に、〈四猫亭〉万歳だな。嗚呼そうだ、これを。〈四猫亭〉からのサービスだそうだ」
「そうか! そりゃいい!」
「ぐいっと一杯、やるといい。ドワーフの飲みっぷりが好きなんだ」
 ドワーフに一人が毒入りのグラスを受け取って、それを呷ろうとした時。フィーダは小さく鳴いた。
「……ん? こんなところに猫でもいるのか?」
「お客様。〈四猫亭〉のパーティを楽しんでおられますか?」
 フィーダの合図に気づいた〈ウッタ〉が、宿の支配人の顔でドワーフの一団に声を掛けた。〈黒犬亭〉の手の者らしき男はあからさまに顰め面をしている。
「応ともさ! このサービスの酒もありがとうな」
「……あら、おかしいですわ。〈四猫亭〉のサービスが、この宿で一番の安酒である筈がありません。勿論それも充分に美味しいものですけど。サービス品は上等なものをご用意しておりますのに」
 男から渡されていたグラスを掲げるドワーフに、〈ウッタ〉は小首を傾げてみせる。ドワーフも同じように首を傾げた。
「何だって? じゃあ、これは一体?」
「そこの方。……これをお渡しになる前に、何か細工をしておられたご様子。何の隠し味か聞いても宜しくて?」
「い、いや……お、俺は確かにそこの女に……」
「私、サービス品だなんて一言も言ってません! 伝票にだって、ほら!」
 〈ユッサ〉が頬を膨らませ、伝票を見せる。証拠も出てきたので、ドワーフが男を見る目つきが剣呑になってきた。〈ウッタ〉がドワーフからグラスを受け取り、男にずい、と差し出した。
「疚しい事が無いのであれば、一口味見してみせてくださる?」
「う……覚えてやがれ!」
 男は分が悪いと悟ったか、さっさと逃げ出してしまった。〈ユッサ〉がしっし、と追い払う。
「……毒だな」
 様子を見に来た〈カゲガクレ〉が、酒の匂いを嗅いで言う。ドワーフは目を丸くして驚いた。
「ごめんなさい、皆様。怖がらせてしまいましたね。もう大丈夫ですわ。お詫びに、これから振る舞う料理と酒は〈四猫亭〉からのサービスとさせて頂きますわ」
「命拾いした上に、更に料理と酒がタダ! 〈四猫亭〉万歳!」
 少しだけ静かになった〈四猫亭〉だったが、すぐにわぁ! と歓声が上がった。ドワーフたちも大喜びだ。ひと段落ついたのを察した〈メイシア〉がより明るく軽やかな音楽を奏で始める。これでパーティは成功だろう。フィーダもくいーっと身を伸ばした。

 翌日、〈ゴールドアクス卿〉から部下を救ってくれた事への礼と、〈四猫亭〉を推すという言葉の書かれた手紙が届けられたのだった。

◆◆◆◆+◆



 四人の〈猫〉たちの個性が際立っているお陰で、彼女たちを書くのが楽しい期になり始めた頃……なのでジワジワと描写が長くなり始めていますので、今回はここまで!


 【魔術ロール】に成功か否かで、これが上手くいくか決まるのですが、メモに特に書いてなかったので恐らく前のできごとで得た「手がかり」を使った説です。

 多分ダイスロールしてたらオアアアア! みたいな悲鳴も書いてあると思うので……(自分への謎の信頼感)

 次からちゃんとメモします!!!!

 次回はさくさくと最終前イベント前まで進めちゃいます。最終前イベントと、最終イベントがありまして、誰を説得しに行くのかをどのタイミングで選ぶのか、も楽しいポイントですね。

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